2020.4.20

労働派遣法とは?2020年に改正されるポイントは?

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時代の流れや政府が推進する働き方改革などによって、派遣社員の働き方に関係する法律は度々改正されてきました。派遣社員に関連する法律のひとつである「労働者派遣法」は2015年に改正がありましたが、2020年に再び改正されます。そこで、派遣社員として働くために知っておきたい労働者派遣法について今一度確認しておくとともに、2020年の改正ポイントについても詳しく解説します。

1.労働者派遣法とは?

「労働者派遣法(派遣法)」の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」です。派遣社員には柔軟で自由な働き方ができることや、ワークライフバランスを考慮した働き方を実現しやすいなどのメリットがあります。その一方で、やはり雇用に関しては不安定な面があることも否めません。たとえば、派遣先企業の都合によって契約が更新されずに終了してしまうこともあれば、正社員に比べてボーナスが無く収入も低くなりがちなどのデメリットがあります。そんな不安定な立場の派遣社員の雇用に関する環境を整え、権利を守るために制定されたのが労働者派遣法です。

労働者派遣法が最初に制定されたのは1986年でした。その後、1996年には対象となる業務が26業務に拡大され、1999年になると一部を除いてさらに広い範囲の業務で派遣が可能になっています。さらに2012年には30日以内の日雇い派遣の原則禁止や有期雇用から無期雇用へ転換する機会の提供などが盛り込まれた改正が行われました。2015年の改正では期間制限のルールの見直しや、キャリアアップ措置の実施が行われるようになっています。もともとの労働者派遣法では、1号のソフトウェア開発や5号の事務用機器操作、7号の秘書など専門26業務(再編成後は28業務)は、専門知識やスキルを持っていることから期間の制限を受けずに働き続けることが可能でした。

しかし、2015年の改正で「事業所単位」 の期間制限と「個人単位」 の期間制限が設けられました。ただし、60歳以上の派遣社員や派遣元企業に無期雇用されている派遣社員など一部例外もあります。派遣社員個人としては、同じ派遣先(同じ部署)で続けて働けるのは最長3年となり、専門26業務も対象となっています。そのため、3年間の期間を満了したのちも同じ派遣先で仕事を続けたいと思ったら、派遣先に直接雇用してもらうか別の部署に異動する、または派遣元に無期雇用にしてもらうしかありません。

事業所単位での期間制限は3年を超えて同一の事業所が派遣社員を受け入れられないという制限です。それは派遣される社員が変わったとしても、一人ひとりが3年ずつではなく、合計で3年となります。ただし、労働組合等で過半数の同意を得られれば、継続して派遣社員を受け入れることができます。2015年に労働者派遣法が改正されるまでは、同じ派遣会社でも「一般労働者派遣事業(一般派遣)」と「特定労働者派遣事業(特定派遣)」という2種類がありました。一般派遣は派遣元に登録して仕事の紹介を受け、派遣先企業が決まった時点で派遣元と雇用契約を交わします。派遣期間が終了したのちに、継続して働く派遣先がなければ雇用契約はそこで終了です。

一方、特定派遣は派遣元に社員として雇用された状態で派遣先に出向くため、派遣先で働く期間が終了しても派遣元との雇用契約は継続したままです。一般派遣を行う派遣会社は事業を営む際に許可を受ける必要がありますが、2015年の改正までは特定派遣のみを事業としている派遣会社は届け出だけで事業を営むことができました。しかし、2015年の改正でこの区分がなくなり、すべて許可制に一本化されたのです。

2.労働者派遣法で副業は禁止されている?

法律上、派遣社員が副業することは禁止されていません。ただし、派遣元企業によっては、就業規則で派遣社員が副業することを禁止しているところもあるため、副業しようと考えている場合はあらかじめ副業がOKかどうか確認することが必要です。ちなみに、派遣社員が雇用契約を結んでいるのは派遣元企業との間であるため、気をつけなければならないのは派遣先企業の就業規則ではなく、あくまで派遣元企業の就業規則です。

3.副業をするときに気を付けたいポイント

就業規則で特に禁止されていなければ、基本的には派遣社員として働きながら副業することが可能です。しかし、副業はあくまで副業なので、本業に差し支えのあるような仕事は避けた方が無難です。副業をするときは、派遣先や派遣元の企業に迷惑をかけないよう、仕事の日数や時間などに配慮して選ぶ必要があります。たとえば、休日を利用して働ける単発の仕事や、シフト勤務で勤務日や勤務時間に融通が利くサービス業などが適している副業の例です。本業があることを伝えておけば、勤務する日や時間も配慮してもらいやすいでしょう。

また、在宅ワークならば通勤時間が必要なく、副業に充てられる時間が確保しやすいメリットがあります。インターネットが普及してからはデータ入力や記事執筆、簡単なものならアンケート回答、スキルがあるならプログラミングやデザインなど、クラウドソーシングでさまざまな副業が可能です。

4.2020年派遣法が改正される?

2020年4月には再び派遣労働者法が改正されます。そこで、2020年の改正ポイントと派遣先企業が受けるデメリットについて詳しく解説します。

4-1.改正のポイントは?

パートタイム労働者に対しては、すでに雇い入れ時に給与や待遇の明示など情報開示が義務づけられていました。2020年に行われる労働者派遣法の改正では、派遣先企業が派遣契約を結ぶ際も同様に、賃金に関する情報開示義務が課されるようになります。2020年の改正以前には特に派遣先の正社員と派遣社員の待遇差があるかどうか、派遣先企業には明らかにする義務はありませんでした。そのため、待遇差があるかどうかを確認することができない場合が多かったほか、待遇差がなくなるようにお願いはできても、対処してもらえるように規制をかけることもできませんでした。改正後は派遣先企業に対して比較対象労働者の賃金の情報開示を求めることができます。

2020年の改正では、「同一労働同一賃金」の考えが派遣労働者に対しても取り入れられるようになることが大きな特徴のひとつです。正社員やパートタイム労働者、派遣社員など、さまざまな雇用契約の労働者が働いている企業では、同じ事業所で同じような業務に就いていても、待遇が異なることが珍しくありませんでした。しかし、同じように働きながら賃金などの待遇に差があるのは不合理という考えから、同一の労働には同一の賃金が支払われるようにすることが必要という動きになったのです。改正後は雇用形態によって不合理な待遇差を設けるのは禁止になります。ただし、改正法は2020年4月1日から施行されますが、中小企業に対しては1年の猶予が設けられます。

2020年の改正では、待遇差の是正を目的に派遣社員の待遇を決定する方法として「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」の2つの規定が設けられました。労使協定方式では、「一定の要件を満たす労使協定」によって待遇が判断されます。つまり、同職種・同地域で働く正規雇用者の平均賃金をもとに賃金が決められるという方法です。一方、派遣先均等・均衡方式は派遣先企業で同じように働く労働者と同じような待遇にするという方法です。このうち均等方式は同じ働き方なら待遇も同じにするという考え方で、「職務内容」と「職務内容・配置の変更の範囲」を考慮して判断されます。均衡方式は働き方が異なるならその事情を考慮して待遇を決めるという考え方で、「職務内容」と「職務内容・配置の変更の範囲」に加えて、「その他の事情」も判断材料に入ります。

4-2.派遣先企業のデメリット

同一労働同一賃金の考えが取り入れられるようになると、派遣先企業が実際に支払わなければならない賃金の負担増加が考えられます。派遣社員に対して、正社員や同じ地域の同職種に就く正規雇用者の平均賃金と同等以上の賃金が支払われるようになると、派遣社員自身が受け取る賃金はアップする可能性が高いでしょう。ただ、派遣先企業は派遣元企業に対して、派遣社員が受け取る賃金にプラスしてマージンの料金も支払わなければなりません。そうなると、正社員だけで業務を行っているのに比べ、派遣社員を雇い入れた方が人件費は増加してしまうことになります。

2020年の法改正では派遣先企業に対して、派遣社員に正社員と同様の教育訓練を受けさせる義務も課されます。また、休憩室・食堂・更衣室など福利厚生施設の利用について、正社員と扱いを変えないことなども義務化されました。教育訓練や福利厚生施設の利用に関しては「義務」となっているため、従わなければ勧告や指導の対象になるため注意が必要です。社員が利用するそのほかの福利厚生施設に関しては、義務ではありませんが、派遣社員も正社員と同様に利用できるよう配慮が求められます。結果的に賃金だけではなく、教育訓練や福利厚生についても従来に比べて費用がかかることが考えられます。

派遣先企業は派遣元企業に対して、自社で派遣労働者と同じ内容の業務に従事している比較対象労働者の賃金に関する情報などを提供しなければなりません。情報提供の依頼があるにもかかわらず提供しなかった場合、改正後は労働者派遣契約が結べなくなってしまいます。派遣社員を雇い入れるために労働者派遣契約を結ぼうとすると、それだけ情報開示のための事務作業も増え、手間がかかることが予想される点もデメリットのひとつです。

もし、正社員と派遣社員でなにか待遇に差がある場合、合理的な理由があるならその理由を説明する必要があります。ないならば、不合理な待遇格差を是正しなければなりません。合理的な理由を説明するとしても、その理由を裏付けるための人事評価や人事制度の見直し、制度の整備などが必要になります。

改正される内容を把握して充実した派遣ライフを!

労働者派遣法は度々改正されてきましたが、2020年の改正では新たに「同一労働同一賃金」や「派遣先の情報提供」などが盛り込まれます。派遣先会社にとっては負担となる内容も含まれていますが、派遣社員にとっては待遇が改善されるポイントも多い改正です。2020年に改正される内容も含め、労働者派遣法を適切に理解したうえで派遣社員として頑張ってみるのも、働き方としてひとつの選択肢ではないでしょうか。