2020.8.18

派遣社員の抵触日とは?「3年ルール」の理由

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派遣で働くなら「抵触日」について理解しておくことが必要です。とはいえ、聞いたことはあってもどのような日なのかよくわからない人も多いのではないでしょうか。そこで、ここでは、抵触日とは具体的にどのようなものなのか、その日を迎えたらどうすべきなのか、抵触日のクーリング期間とは何なのかなどについて紹介します。

1.抵触日とは

2015年に施行された改正労働者派遣法では、「派遣社員が同じ組織で3年を超えて働くことはできない」と定められています。これがいわゆる「3年ルール」です。抵触日とは、派遣期間が切れた日の翌日を指します。抵触日を迎えたら、原則として同じ組織でそのまま派遣社員として働き続けることはできません。抵触日のせいで派遣社員として同じ組織で長く働けないことに、不満を感じる人もいるでしょう。それでは、どうして抵触日があるのでしょうか。

そもそも、派遣社員は不安定な身分です。正社員とは異なり賞与や退職金の制度が整っているとはいえず、契約を更新されなければすぐに職を失います。安い労働力として雇っている企業も多いでしょう。このような労働者にとって不利な状況を是正するために設けられたのが、3年ルールであり抵触日なのです。抵触日があることで派遣先企業は長期間にわたって派遣社員を雇い続けることはできず、直接雇用を申し出るなどしなければならなくなります。労働者にとっては、安定した雇用への門戸が開くことになるのです。

なお、派遣社員の期間制限には「個人単位」と「事業所単位」の2種類あり、それぞれ分けて理解する必要があります。

1-1.個人単位の抵触日

まずは、個人単位の期間制限について説明します。派遣社員は、同一の組織(課やグループなど)で働けるのは派遣された日から3年間と定められています。仮に、2020年4月1日に派遣されて働き始めたとしましょう。すると、3年後の2023年3月31日に期限を迎えます。その翌日の2023年4月1日が抵触日です。ただし、同じ企業内であっても別の課やグループに異動すると、3年ルールに当てはまらなくなります。そのため、たとえば「同じ企業の人事課で3年働いたのち総務課に異動して3年働く」といったことは可能です。

1-2.事業所単位の抵触日

次に、事業所単位の抵触日について説明します。同一の事業所において派遣社員を受け入れられるのは、原則として3年間と決まっています。このルールのポイントは「同じ派遣社員に限らない」点です。たとえば、ある事業所で派遣社員Aさんが2018年4月1日から2020年9月30日まで2年半働いて辞めたとしましょう。次に来た派遣社員Bさんがこの事業所で働けるのは、2021年3月31日までの半年間で、抵触日は2021年4月1日になります。つまり、派遣された事業所によっては3年間よりずっと短い期間しか働けないケースもあるのです。

ただし、事業所単位の期間制限に関しては、意見聴取手続きをふめば延長できます。これは、事業所単位の抵触日の1カ月前までに、事業所が過半数労働組合などに対して意見聴取を行えば、期間の延長ができるというものです。

1-3.抵触日が対象外の人

派遣の期間制限はすべての派遣労働者に適用されるわけではなく、対象外となるケースもあります。たとえば、派遣会社に無期雇用されている派遣社員や60歳以上の派遣社員などです。これらのケースでは抵触日はなく、とくに手続きをしなくても3年を超えて同じ組織で働けます。このほか、完了時期が確定している有期プロジェクトに派遣されて業務に従事している場合、プロジェクト終了までは3年を過ぎても働くことが可能です。産休や育休、介護休暇を取得している社員の代わりに派遣されたケースや日数限定業務に従事するケースも、3年ルールの対象外となります。

日数限定業務とは、1カ月間に勤務する日が10日以下かつ一般的な労働者の半分以下である業務のことです。

1-4.抵触日を迎えたら

派遣期間制限を受けない一部の派遣社員を除き、基本的に抵触日を迎えたらそのまま働き続けることはできません。抵触日を迎えたときにとれる選択肢は、主に次の4つです。

  • 派遣先企業に直接雇用される
  • 派遣会社に無期雇用される
  • 同一企業の別の課やグループに異動して働く
  • ほかの企業で派遣社員として働く

それぞれ詳しく見ていきましょう。

抵触日を迎えた際、これまでの実績や働きぶりを評価されて派遣先企業から直接雇用の提案を受けるケースがしばしばあります。これは、会社としても新たに別の社員を迎え入れるよりも、いちから教育する必要がなく人柄も働きぶりもわかっている社員をそのまま雇用するほうがメリットがあるためでしょう。ただし、必ずしも正社員で雇用されるわけではありません。契約社員やパートとして直接雇用されるケースもあるため、打診を受けたときは契約条件をしっかり確認することが大切です。

派遣期間が通算で5年を超える場合、派遣社員が希望すれば無期雇用派遣に転換することもできます。無期雇用派遣になると期間制限がなくなるため、同じ派遣先企業で引き続き働くことが可能です。ただし、派遣先企業がこれ以上は必要ないとして派遣を断った場合は、別の企業で働くことになります。

3年ルールが適用されるのは同一の課やグループなどの組織単位です。そこで、同一の企業でも別の課やグループに異動すれば、継続して働けます。部署は変わるとしても、慣れた環境で働き続けられることは大きなメリットです。とはいえ、課を異動することで業務内容が大きく変わってしまい、これまで培ってきたスキルや経験が活かせなくなることもあるでしょう。同じ職種や業務内容で働きたいのであれば、派遣会社からその業務で求人を出している別の企業に紹介してもらう方法もあります。

2.クーリング期間とは

個人単位の期間制限にも事業所単位の期間制限にもリセットできる期間があり、これを一般にクーリング期間とよんでいます。先に述べたように、個人単位の期間制限においては同一の組織で3年を超えて働くことはできません。ただし、派遣期間が終了したあと3カ月と1日経てば、期間のカウントがリセットされ、同じ派遣社員を再び受けいれることが可能となります。事業所単位の期間制限においては、同じ人ではなくても3年を超えて派遣社員を受け入れることはできません。この場合も、期間が終了してから3カ月と1日経てば、派遣社員を受け入れることができます。この3カ月と1日がクーリング期間です。

とはいえ、派遣先企業がクーリング期間を設けて期間制限をリセットし再び同じ派遣社員を受け入れることは、法律上推奨されていません。派遣会社が3年間派遣したあとクーリング期間を設け、派遣社員本人の希望と関係なく再び同じ組織に派遣することも、望ましくない行為とみなされます。なぜなら、これらは法律の趣旨に反する行為だからです。派遣社員に対してのペナルティはないものの、派遣先企業は指導の対象となる可能性があります。

3.派遣社員に関するQ&A

ここでは、派遣社員に関してよくある質問について解説します。

Q.紹介予定派遣であれば直接雇用されやすいのか?

派遣社員には、一般的な形態である有期派遣のほかに、無期派遣や紹介予定派遣などの種類があります。このうち紹介予定派遣とは、最長で6カ月間派遣社員として働いたあと、派遣先企業と派遣社員本人とが合意すれば派遣先企業に直接雇用される働き方です。派遣社員にとっては直接雇用されるまえに企業の雰囲気や業務の内容を知ることができるなどのメリットがあります。企業側としても、直接雇用するまえに派遣社員の人柄や働きぶり、スキルなどを知ることができる点がメリットです。

とはいえ、紹介予定派遣であれば必ず直接雇用されるものでもありません。なぜなら、企業と派遣社員の合意が必要だからです。一般派遣よりも直接雇用される可能性は高いとはいえ、仮に企業が望まない場合は、直接雇用されることはありません。もちろん、企業が望んでも派遣社員側が直接雇用を望まなければ断ることも可能です。

Q.無期雇用派遣のメリット・デメリットはなに?

無期雇用派遣は、派遣会社と派遣社員とが期間を定めずに雇用契約を結ぶ働き方です。メリットとデメリットとを紹介します。まず、大きなメリットとして、毎月一定の給料を受け取れる点が挙げられます。一般的な有期雇用の派遣社員の場合、就業していない期間の給料は発生しません。しかし、無期雇用派遣であれば、就業していない期間があったとしても給料が支払われます。また、抵触日を気にせず同じ職場で働き続けられる点も、メリットといえるでしょう。派遣会社にもよりますが、昇給や賞与制度もあります。

デメリットは、「限定した曜日だけ働く」「一定の期間働いてお金を貯めたあとはしばらく休む」など、派遣社員ならではのライフスタイルに合わせた働き方をすることが難しくなる点です。派遣会社は無期雇用の派遣社員が就業していない期間も給与を支払う必要があるため、なるべく待期期間を作らないように無理にでも仕事を用意します。派遣会社の指示に従う必要があるため、自分で職場を選ぶ自由もあまりありません。

Q.労働契約申込みみなし制度とは?

派遣先企業が違法派遣と知りながら派遣社員を受け入れた場合、「労働契約申込みみなし制度」が適用されます。これは、派遣先企業が派遣社員に対して直接雇用を申し込んだとみなす制度です。派遣社員が申込みを承諾すれば、派遣先企業と派遣社員との間で労働契約が成立します。派遣先企業は、派遣会社と派遣社員が契約した労働条件と同じ内容で雇用しなければなりません。

違法派遣には、次のようなケースが該当します。

  • 派遣禁止業務(港湾運送業務や建設業務など)に派遣社員を従事させた
  • 無許可・無届の派遣会社から派遣社員の紹介を受けた
  • 期間制限に違反して派遣社員を受け入れた
  • 偽装請負などを行った

なお、派遣先企業が違法派遣であると知らずに派遣社員を受け入れた場合には、みなし制度は適用されません。

派遣で働くなら抵触日を正しく理解しておこう

派遣社員として働く場合は「3年ルール」や「抵触日」を正しく理解しておくことが大切です。抵触日を迎えたあとは、直接雇用や部署の移動、別の企業を紹介してもらうなどいくつかの選択肢があります。抵触日が近づいてきたら、自分はどのような働き方を希望するのかについて派遣会社の担当者とよく話し合うようにしましょう。