2020.8.18

派遣社員でもキャリアアップはできる?キャリアアップ支援の義務化とは

記事メイン画像

工場などで派遣社員として働く場合、キャリアアップができるかどうかは気になるところです。結論から言えば、キャリアアップをすることはもちろん可能です。ただし、派遣社員としてキャリアアップを目指すにはさまざまな方法があるので、職種や働き方に合った道を見つけましょう。この記事では、派遣社員のキャリアアップについて解説します。

1.派遣社員でキャリアアップは可能なのか

多くの企業で、派遣社員のキャリアアップは実現可能です。キャリアアップを実現するために、まず「派遣社員としてのスキルアップを目指す」という方法があります。派遣社員の待遇は任せられる仕事の専門性に関係することが少なくありません。専門性が高く、代わりを探しにくい業務に就いていれば、当然派遣先は「手放したくない」と考えるようになります。そのため、多少条件を上げてでも契約を更新したいと考えるようになるのです。また、スキルの高い人材は、派遣会社から職場を紹介してもらうときにも選択肢が広がることが多いのです。

次に、「正社員を目指す」という方法が挙げられます。一般的に、正社員は派遣社員よりも安定性の高いポジションだとされてきました。契約期間の縛りがあるわけではなく、ひとつの企業で終身雇用してもらえる可能性もあるからです。また、社内で重要な責任を負い、出世していけるのも正社員になるメリットです。ある分野で大成したいと考えるのであれば、派遣社員としてキャリアをスタートさせ、正社員に切り替えるよう努力するのも効果的な方法です。

ただ、かつては「派遣社員の待遇はなかなか変わらない」と考えられていた時代もありました。しかし、時代とともに派遣社員のキャリアアップを支援する環境は整いつつあります。その代表例は、「キャリアアップ研修」です。改正労働者派遣法により、労働者教育は義務化されるようになりました。すなわち、企業は雇用形態を問わず、従業員に対して3年間で8時間以上の労働教育を施すことが絶対条件になったのです。この制度によって、派遣社員もキャリアアップに必要な教育を受けられる機会が増えました。

さらに、教育そのもののバリエーション増加も派遣社員への追い風となっています。昔の社員教育といえば、会議室などに集まって講師の話を聞くケースが大半でした。しかし、このやり方では忙しい従業員、スケジュールの合わない従業員は参加できないので公平とはいえませんでした。こうした問題を解消するべく、テキストやソフトウェアといった自宅学習用の教材を格安で提供する派遣会社が増えてきています。また、インターネットを通じて授業を受ける「eラーニング」も、キャリアアップ研修を望む派遣社員にとっては便利な手法です。

このように社会として全体的に派遣社員のキャリアップを支える流れは生まれているものの、すべての企業や派遣会社が積極的に取り組んでいるわけではありません。教育に時間をかける資金的な余裕がなかったり、派遣社員へ親身に対応をしていなかったりする派遣会社では、いまだにキャリアアップは難しいでしょう。派遣社員として働きながら、将来的に重要な仕事を任せてほしいと思っているのなら、最初からキャリアアップの環境が整っている派遣会社、派遣先を選ぶことが大事です。

たとえば、「カウンセリング」が充実している派遣会社は、キャリアップに協力的だと考えられます。カウンセリングとは定期的に担当者が派遣社員と面談し、希望する方向性を細かく聞き出していく時間です。自分のビジョンが曖昧だった派遣社員も、カウンセリングを通じて進むべき方向を固めることができます。こうした話し合い自体は派遣会社の義務ではあるものの、その際、「では、こういった努力が必要ですね」などと真剣に導いてくれる担当者がいれば、派遣社員はキャリアアップを成し遂げやすくなります。登録の際は、キャリアアップの体制が整った派遣会社を選ぶようにしましょう。

2.「キャリアアップ支援の義務化」とは

派遣社員のキャリアアップが実現しやすくなった要因として、「キャリアアップ支援の義務化」が挙げられます。法律で派遣会社は派遣社員のキャリアアップをサポートしなければならなくたったため、さまざまな支援内容が制度化されました。以下、具体例を紹介していきます。

2-1.派遣元でのキャリアアップ支援の具体例

まず、2015年から実施された改正労働者派遣法によって派遣会社に義務化されているキャリアアップ支援は「入植時の職業訓練」「長期的なサポート」などです。そのほか、キャリアップにつながる研修も派遣会社が主導で開催しなければなりません。しかも、こうした支援サービスは全ての派遣社員が対象となっています。職種や年齢などによって、派遣会社が独自に「支援は必要ない」と判断することはできません。登録している派遣社員には平等なチャンスを常に与えるよう、法律で定められているのです。

そのほか、細かくキャリアアップ支援の内容を見ていくと、まずは「教育訓練計画」があります。これは、派遣会社が主体になって、派遣社員の受けるスキルアップ講習、キャリアアップ研修の計画を立てていくことです。かつては、こうした計画の策定は希望者だけを対象にしていました。しかし、法改正によって派遣会社は全派遣社員に教育訓練計画を策定することが義務化されました。

次に、「キャリアコンサルティング」も派遣会社に課せられたタスクのひとつです。ここでいうコンサルティングとは、派遣社員の目指す方向性を担当者が相談を受けながら一緒に考えていく取り組みのことです。なぜコンサルティングが必要なのかというと、主に派遣社員のスキルや希望と派遣先の仕事内容のミスマッチを防ぐためです。本人が「実力を認められて正社員になりたい」と願っているにもかかわらず、正社員登用を行っていない企業へと派遣されてしまったら希望は実現しません。こうしたトラブルを避けられるよう、派遣会社は派遣社員の希望を聞き出しておくことが大切です。

そして、派遣会社は派遣社員に対し「研修」を行っていきます。改正労働者派遣法により、派遣会社は最初の3年間は年1回以上のペースで派遣社員に教育訓練を施さなければなりません。その後は派遣社員のキャリアを確認しながら、必要だと思われるタイミングでセミナーや研修を案内していきます。もちろん、本人から「教育を受けたい」と希望してくるケースもあるでしょう。そのようなときに、適切なテキストを用意できたり、相談に乗ってくれたりする派遣会社が理想です。

「派遣社員の能力把握」も派遣会社の義務です。スキルはもちろん、本人の意向も聞いておかなければ、派遣会社は正しいキャリアアップ支援を行えません。ただ、派遣社員の願望と現実の能力がかけ離れていることもあるでしょう。派遣会社は派遣先での評価に耳を傾けながら、契約更新時などの派遣社員の勤務の節目にその状況に注目します。そして、それぞれの段階で勤務態度、能力を客観的に判断し、目指すべき方向性を提案していくのです。

そのほか、派遣会社から派遣社員への「啓蒙活動」も実施されるようになりました。ここまで述べてきたようなキャリアアップ支援も、派遣社員本人のモチベーションが低ければ機能しません。そのような場合に派遣会社は看過せずに、対象となる派遣社員の勤労意欲を高めるための働きかけを行うことが求められます。このような、派遣社員とのコミュニケーションを怠らない派遣会社であれば、キャリアアップへの糸口を見つけやすくなるでしょう。

2-2.派遣先でのキャリアアップ支援の具体例

2020年には労働者派遣法がさらに改正され、派遣先で行われている教育訓練の多くが派遣社員も対象になりました。また、派遣先から派遣会社への配慮義務も増えています。たとえば、職務遂行に必要な情報は、正社員や派遣社員の区別なく提供することが配慮義務になるなど、派遣社員の待遇は大きく変わりつつあります。こうした社会情勢にともない、派遣社員が望めば派遣先からも十分なキャリアアップ支援を受けられる可能性は高まっています。

たとえば、業務に必要なスキルを磨くための教育訓練の場は派遣社員なら積極的に参加したいところです。これまで、派遣社員への教育訓練は派遣会社のみに課せられた義務とされてきました。しかし、実際に派遣社員が仕事をするのは派遣先なので、派遣会社が訓練を行うのは非効率的になるケースが少なくありませんでした。こうした反省から、法改正後は派遣先が実践的な訓練を行わなければならないようになったのです。

また、派遣会社が主体で実施する教育訓練についても、派遣先は可能な限り協力しなければなりません。もしも大切な訓練があるのなら、その日に合わせて派遣社員のシフトを調整しなければならないなど、便宜を図ることも義務付けられています。法改正によって派遣社員は「訓練を受けたいのに仕事の都合がつかない」といった問題を解消でき、キャリアアップのために時間を使いやすくなったのです。

そのほか、派遣先は派遣会社から要求があった場合、派遣社員の能力や賃金に関する情報を提供しなければなりません。そして、これらのデータを参考にして派遣会社は派遣社員の教育計画を立て、実施していきます。こういったやりとりは派遣社員から確認できるわけではないものの、間接的に自身のキャリアに関わってくる内容です。そのため、これも派遣先からなされるキャリアアップ支援の一環だといえるでしょう。

ただ、派遣先によっては教育訓練を行うことが手間や負担になってしまう可能性もあります。派遣会社への情報提供に抵抗を感じる企業も出てくるでしょう。中には派遣会社や派遣社員に対し、非協力的な姿勢をとる派遣先が出てくることも考えられます。そこで、こうした派遣先には厚生労働大臣から指導がなされるように定められました。あまりにも非協力的な企業は企業名を公表されてしまいます。このようなことから、派遣社員にとってはキャリアアップを目指せる環境が整いつつあるのです。

派遣会社も派遣先もキャリアアップ支援に力を入れている!

改正労働者派遣法により、派遣会社や派遣先は派遣社員のキャリアをサポートすることが義務付けられました。そして、教育訓練やカウンセリングといったキャリアアップ支援を積極的に受けられる環境が整ってきたのです。もしも企業で重要なポジションを与えられたいと願っているなら、派遣社員からキャリアを始めてみるのもひとつの方法です。