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ディーセント・ワークとはどういうもの?理念や企業としての取り入れ方

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この記事では、ディーセント・ワークという言葉の意味とその背景、注目される理由や、ディーセント・ワークの戦略目標などについて詳しく解説します。労働環境の改善に関心のある方や、日本の労働問題について知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。


ディーセント・ワークとは?

ディーセント・ワークとは、ILO(国際労働機関)が提唱する重要な概念で、「働きがいのある人間らしい仕事、より具体的には、自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、全ての人のための生産的な仕事」のことを指します。
ディーセント・ワークという言葉は、1999年の第87回ILO総会での報告において、ファン・ソマビア事務局長によって初めて紹介されました。ファン・ソマビア事務局長は、次のように意見を述べています。

「ディーセント・ワークとは、権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事を意味します。それはまた、全ての人が収入を得るのに十分な仕事があることです」
引用:ディーセント・ワーク(ILO駐日事務所)  https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/decent-work/lang--ja/index.htm

全ての人に十分な仕事が与えられるだけでなく、その仕事が権利や社会保障、社会対話が確保されていて、なおかつ自由と平等が保障されるものであることが強調されています。つまりディーセント・ワークとは、単に仕事があるだけではなく、働く人々の生活が安定し人間としての尊厳を保てる生産的な仕事のことです。

ディーセント・ワークが注目される理由

世界では20億人以上が食べ物に困っているという厳しい現実が存在します。そういった状況の中、ディーセント・ワークの推進は労働者が平等に扱われることの実現につながります。その結果、賃金の向上や社会保障が期待できて、所得の格差が減少する可能性が高まるでしょう。
日本では正規雇用者と非正規雇用者の間での所得格差が問題となっています。国税庁の「令和3年分 民間給与実態統計調査」でその年間平均給与差が310万円にものぼることがわかっています。更に、日本の労働環境は国際的に見ても改善の余地が多いことが指摘されています。2013年には、国連の社会権規約委員会から「多くの労働者が非常に長時間の労働に従事し、過労死が発生し続けている」と勧告を受けています。これに対して日本は働き方改革を進め、長時間労働やハラスメントの問題に取り組む法改正を行いましたが、まだ解決しきれていない問題も多いのが現状です。
参考:https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2021/pdf/000.pdf

ディーセント・ワークを導入することで、こういった問題を根本から解決することが期待されています。所得の格差だけではなく、長時間労働やハラスメントへの対応としても有力です。

ディーセント・ワークの戦略目標

ディーセント・ワークの実現に向け、ILOは「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」において4つの戦略目標を掲げています。

1.仕事の創出
国や企業による仕事(雇用)創出などの支援

2.社会的保護の拡充
社会保障の充実や安全で健康的に働ける職場環境整備

3.社会対話の推進
職場の問題や紛争の平和的解決を促進

4.仕事における権利の保障
労働者の権利を保障・尊重するための取り組み。

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ディーセント・ワークに対する日本の取り組み

日本は国際労働機関(ILO)の提唱するディーセント・ワークを社会的な課題として捉え、さまざまな取り組みを行ってきました。特に「働き方改革」ととして、労働者の権利や福祉を向上させる施策が進められています。

日本におけるディーセント・ワークの内容

日本では、ディーセント・ワークを「働きがいのある人間らしい仕事」として捉え、以下の4つを中心として取り組みを行なっています。

働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること
人としての尊厳を持って生きるためには、十分な収入を安定して得る必要があります。仕事があっても十分な収入を得られずに貧困に陥るということがないよう、また収入があっても過酷な労働条件ではないことなどが求められます。

労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
日本では「労働三権」という法律が定められています。これは、労働者が労働組合を結成したり団体交渉権や団体行動権を持ったりすることを保障するもので、職場における発言の自由や権利の確保が求められています。

家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること
仕事と家庭の両立、安全で快適な職場、そして雇用保険や医療、年金制度の充実が求められています。労働者が安心して働くことができ、同時にスキルアップにも取り組める環境をつくるためです。

公正な扱い、男女平等な扱いを受けること
全ての労働者が性別や雇用形態に関係なく能力によって公平に評価され、平等な待遇を受けることも重要視されています。働き方の多様性を尊重し、それぞれの能力を活かすことで、より豊かな社会をつくる目的です。

日本におけるディーセント・ワークの評価軸

日本でのディーセント・ワークの実現を目指す中、企業はどのような行動をとるべきでしょうか。厚生労働省は、その基準として「七つの評価軸」を示しています。

WLB軸
「ワーク」と「ライフ」のバランスをとりながら、「つになっても働き続けることができる職場かどうかを示す軸です。日本は少子高齢化に伴い、労働力人口の減少が進んでいます。この状況においては、年齢に関わらず働き続けることが可能な環境整備が重要です。一例として、特別休暇制度の設定や柔軟な勤務時間・場所の対応、個人事業主として働ける仕組みの構築などが挙げられます。

公正平等軸
性別や雇用形態を問わず、全ての労働者が「公正」「平等」に活躍できる職場かどうかを示す軸です。2020年からの「同一労働同一賃金」関連法の導入により、非正規労働者と正規労働者の賃金や福利厚生が、能力や業務内容に応じて考慮されることになりました。これにあわせて、性別や雇用形態に関わらず、適切な評価を行うための人事評価制度の整備も同時に重要視しなければなりません。また、障害者や高齢者といった人々にも、適切な職場環境を提供することが求められています。

自己鍛錬軸
能力開発の機会が確保され、自己の鍛錬ができる職場かどうかを示す軸です。具体的には、教育体制がしっかり整備されていること(新入社員研修など)、従業員の希望を考慮したキャリアアップの仕組みが確立されていることなどが挙げられます。ただし、従業員の負担が増すことのないよう配慮することも大切です。従業員が能力を向上させる機会を手に入れることで、満足感を得られる職場環境を整えることが目的とされています。

収入軸
人としての生活を営める収入を得られる職場かどうかを評価する軸です。
国の賃上げ要請に応じて賃金の引き上げを行う企業も増えていますが、まだ充分とは言えない水準です。同様に、子育て支援の一環として子供手当などを設置した企業もありますが、企業内の託児所整備が進んでいないという問題も出てきています。また、2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)に達し、介護の課題が深刻化するといわれています。将来的には収入や介護を両立できる仕組みの構築が課題となるでしょう。

労働者の権利軸
働く人が、企業と同じ立場で労働条件や職場環境などについて話し合える職場かどうかを評価する軸です。厚生労働省の「2022年労働組合基礎調査」によると、日本の労働組合の組織率は16.5%にとどまっています。労働組合に限らず、「社員会」などの形態でも、働く人が自分の意見を表明できる場を設けることが重要です。法改正が進んだ近年では、労働者の権利や義務も以前とは異なる形に変化してきました。職場内の環境を健全に維持するためには、権利と義務の明確化と相互の尊重が非常に重要になってきます。
参考:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/roushi/kiso/22/dl/01.pdf

安全衛生軸
安全で衛生的な環境が確保・維持されている職場かどうかを評価する軸です。日本においての労働災害は、設備や器具の改善などの環境整備によって減少傾向にあります。しかしながら、長時間労働やハラスメントによる精神的な健康への影響は深刻化しているのが現状です。特に最近は、新型コロナウイルスの影響でテレワークが増加し、コミュニケーション不足によって精神的な疾患を引き起こす方が増加しています。こうした状況を踏まえて、企業は労働者の心身の安全を考慮し、長時間労働や休日出勤の減少、適切な人員配置や業務内容の見直しなどを行うことが重要です。また、良好な人間関係を築くための環境作りも求められています。

セーフティネット軸
社会保障制度の充実度合いを評価する軸です。働き方改革が進む中で、労災保険や雇用保険の適用が見直されています。具体的な例としては、副業解禁による2カ所以上に勤務する労働者への労災保険の見直しや、65歳以上の複数勤務の労働者に対する雇用保険の適用などが挙げられます。2022年4月からの年金改正では、65歳未満で働きながら年金を受給する人々への支給停止基準が見直され、更に65歳以上での年金受給者も増額される仕組みが導入されました。
企業側としては、法改正に伴う変更点を把握し、積極的に新しい規定を適用することが求められます。同時に、働く人の混乱や不安を避けるため、情報提供と周知活動を適切に行なうことが重要です。

働き方改革の推進

日本の現状からディーセント・ワークの理念を叶えるためには、働き方自体の改革が不可欠です。働き方改革で是正された一例を紹介します。

長時間労働の是正
労働者の過度な労働を防ぐため、基本的に時間外労働は月45時間および年360時間以内とされています。特別な状況が発生して双方の同意がある場合でも、月においては100時間未満、年においては720時間以内といった上限が定められており、これを超えると刑事罰の対象となります。

同一労働同一賃金の実現
同一労働同一賃金とは、同じ企業や団体内での正社員と非正規労働者のような異なる雇用形態の間で不合理な待遇差が出ることを防ぐための取り組みです。若者や女性、高齢者など様々な世代の労働者が平等な権利を持ち、どのような雇用形態でも公平な取り扱いを受けるべきだという理念に基づいています。

多様で柔軟な働き方の実現
従来のフレックスタイムは最大1ヶ月単位でしか適用できませんでしたが、現在では2ヶ月や3ヶ月単位での適用も可能になりました。企業にとっては、年度末の忙しい時期や夏の繁忙期など、シーズンごとに休暇を調整するメリットが大きい制度です。3ヶ月単位での調整が可能なことで、企業のスケジュールに合わせて労働時間の柔軟な調整ができるようになりました。

企業が実施できるディーセント・ワークの取り組み

質のいい労働環境を意味するディーセント・ワークを求める声は、国際的に高まっています。日本では特に、企業がディーセント・ワークを実現するため具体的に取り組むことが必要です。ここでは、企業が実践できるディーセント・ワークの取り組みについて説明します。

長時間労働の見直し

日本の労働環境における課題の一つとして「長時間労働」が挙げられます。長時間労働は労働者の健康状態や家庭生活に悪影響を及ぼすため、ディーセント・ワークの観点において優先的に改善すべき点です。厚生労働省の令和4年「労働時間制度の現状等について」によると、日本の労働時間は1,700時間を下回っていますが、パートタイム労働者を除く労働者の年間総労働時間は2,000時間台とされています。この結果をもとに、労働者が自分の生活を適切に営めるよう、長時間労働を改善する方法を考えることが課題と言えるでしょう。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000981929.pdf

ハラスメントの防止

職場でのハラスメント防止は、ディーセント・ワークを実現するために重要な要素です。特に、言葉や行動によって労働者の人権を侵害するような行為は絶対に避けなければなりません。厚生労働省は2020年に、「厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」を公表しました。この調査によると、企業の48.2%でパワーハラスメントの相談があったことが示されています。ディーセント・ワークを実現するために、従業員の教育や研修を積極的に実施し、ハラスメントを防ぐ環境を整える取り組みが必要です。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000783140.pdf

多様な働き方の採用

現代の日本では「ダイバーシティ」や「インクルージョン」という考え方が広まりつつあり、それに伴って多様な働き方が推進されています。この動きは、ディーセント・ワークの理念とも合致している考え方です。例えば、男性の育休取得やリモートワークの普及、短時間正社員制度の導入など、多様な働き方を採用する企業が増えてきています。働き方の選択肢が増えることで、労働者が生活スタイルや価値観に合った方法で働くことが可能になります。

企業がディーセント・ワークを推進するメリット

ディーセント・ワークの取り組みを進めることは、企業にとって多くのメリットがあります。この項目では、ディーセント・ワークへの具体的な取り組みやその方法について詳しく説明していきます。

生産性が向上する

快適な労働環境を用意することで、従業員の満足度やモチベーションを高めることができます。更に、定期的な研修やキャリアアップの機会を用意することで、従業員の自己研鑽の機会も増加して生産性の向上に繋がるでしょう。

人的資源の安定化

公正さがあって健全な労働環境は、優れた人材を引き寄せて企業内にとどめる効果があります。過去の日本では、女性の妊娠・出産やそれに伴う退職・復職を考慮していなかった面がありました。日本が労働力の不足に直面する中で、女性の意思を尊重し、能力を活用することが大切です。柔軟な勤務体系を整備し、ディーセント・ワークを実現することで、人材採用に関わるコストを削減することができます。

法的リスクの軽減

ディーセント・ワークの取り組みは、労働法や健康・安全に関する法律を守った働き方です。企業としては、そういった法律や規制を遵守することで、法的なリスクや罰金のリスクを抑えることが可能となります。

企業イメージの向上

ディーセント・ワークの推進は、企業の社会的責任を示す要素になります。ディーセント・ワークの考え方はSDGsの目標にも繋がっているため、企業としてのブランドイメージや信頼性の向上にも役立つでしょう。

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