トヨタの生産方式に関して

「継続して改善推進できる現場組織」 第7回

青木幹晴

設計・生産技術・製造の比較

設備課は工場のド真中に位置し、各工程と
ホットライン(直通電話)で直結されている

 トヨタは大卒・大学院卒技術系を一括して採用し、新入社員研修後に、「自動車設計部門」「生産設備設計部門」「工場製造部技術員部門」の3つの部門に振り分けて配属する。彼らはほぼ全員が「自動車設計部門」を希望しているので、配属辞令交付時にそこへ入れなかった人はものすごく落胆する。特に「工場製造部技術員部門」へ配属になった人は寮の部屋へ籠もってしまい、「俺、会社辞める」と言い出す始末である。しかしいざ、配属先で仕事をしだすと、「工場製造部技術員部門」の連中が一番いきいきしていたように思う。

 さて物造りメーカーというのは、生産設備をどれだけ自前で設計・製造できるかが勝負になる。一般の機械メーカーから買い入れた機械をそのまま使っているとしたら、競争相手メーカーも同じことができる。製造方法・製造機械に独自の物を考案・開発できれば、競合他社はまねできないのだ。だからトヨタは、「生産設備設計部門」を充実させて、機械メーカーに指示・指導して新設ラインを立ち上げるのだ。トヨタは頻繁なモデルチェンジがあったり、旺盛な改善活動があったりするため工程変更の頻度が非常に多い。

 生産設備部門の技術員もその都度、工場製造部と細かい技術的な打ち合わせをしなければならない。しかし工場製造部の課長・係長などの職制は、日々の生産活動で手一杯のためそのようなことにまで対応できない。そのため工場製造部の中に「技術員室」という技術集団が必要になり、ここが現場の意見を代弁する。またここは改善活動を一手に引き受けている。やはり改善活動には技術的要素が不可欠だからだ。

 そしてトヨタのすべての製造課は、現場作業者の中から昇格してきた課長(副課長)と、工場技術員から昇格してきた課長(正課長)の2人の課長で運営される。やはり課のトップである正課長は技術的な話も関係部署とやりあわなければならないため、工学部出身者でなければならない。また副課長は現場の親分的存在で主に人事的な方面を受け持つのである。また製造部長も役員等と技術的 な話もしなければならないため、工学部出身者の技術員室OBである必要がある。現場上りの副課長も次長までは昇格できる。トヨタへ現場作業者として入社しても次長まで昇格できる道があるのだからやる気も出る。

 ところで私は相当大きな企業のコンサルティングも行っている。信じられないことだが、そこには設備課がなかった。設備の修理なども製造課でできるところまで行って、無理な部分は機械メーカーにお願いしているのだ。これにはびっくりした。これでは製造課の本来の活動である“高品質な製品を安く造る”ということに集中できない。

 そこでトヨタの設備課の体制について説明した。要員数としては製造部の5%も投入している。位置は工場のど真中にあり、各現場とホットラインが通じていて何か発生するとすぐに駆けつけることができる。
ここでトヨタ工場全体の組織と拠点の位置をご説明したい。まず本館には工務部と品質管理部がある。必要に応じ、工場にちらばっている各製造部の事務所へ出向いていろいろな対応をしている。各製造部の事務所には製造部の工長(係長)以上のデスクがある。またそこにはそれぞれの技術員室の事務所がある。

 その中でエンジン製造部だけは、生産管理機能と品質管理機能もエンジン工場の事務所に詰めている。やはりエンジンはそれ単体で機能するため、製造現場・製造職制・技術員・生産管理・品質管理のすべての機能が一堂に会していた方が対処し易いからだ。私もここの生産管理を任されていたが、いろいろな機能の人間がいてものすごく勉強になった。