トヨタの生産方式に関して

「ロット生産の惨状」 第29回

青木幹晴

 ここではロット生産を行っている写真を掲載する。作業をしていて、休憩に入りここから離れて、また戻って来て仕事を再開するとする。その際、加工済みの製品とまだ加工していない製品とをどのよう区分するのだろうか。それはそれぞれの作業者の記憶に頼っているのだろうが、そのようなことをしていると必ず加工忘れで後工程に流してしまう物が発生してしまう。
 また作業者がこのロット生産を行っていると、製品を机に並べたり、どこかに一時置きしたり、後工程へ運んだり、その都度自分で判断していろいろな仕事をしなければならない。こうなると、仕事の標準化ができず、標準作業票が作成できない。
 1個流し化によりサイクリックな作業となり標準作業化ができれば、そこに規定した標準時間どおりに作業ができているか、生産管理板で1時間ごとに確認できる。そうなると作業者は作業の手を休めることができなくなる。
 しかしロット生産の場合、作業者は自分の意思でいろいろな作業を行うため、管理監督者がそれを見てもいても作業が進んでいるのか遅れているのか分からない。またそこら中に仕掛品があるため、より分からなくなる。そんな状態で監視がないと、作業者は容易に仕事をサボることができる。
 それには経営者・管理監督者とも困ってしまうため、作業者にサボらず作業をさせるため、出来高制賃金制度を導入する。そうなれば作業者は造った分だけ金になるのだから必死に造る。しかしこれにより各工程の作業者がいっぱい仕掛品を造っても、結局一番遅い作業者のペースでしか製品は完成しない。結局、速い作業の作業者の工程では仕掛品が滞留してしまうだけだ。布づくりに例えてみると、各工程でどんなに沢山の糸を造ったとしても、それらの糸を織らなければ布はできない。そのうち糸の倉庫ができてしまう。
 このような状態に陥ってしまうと、もう工場はどうすることもできなくなる。聞きかじりで、どんな改善をしようがまったく効果を出すことができない。結局、2枚目の写真で示すような手順で1つ1つ改革を進めていくしかない。
青木幹晴(あおき みきはる)プロフィール
1955(昭和30)年、愛知県豊橋市生まれ。
1978(昭和53)年、早稲田大学商学部を卒業。
トヨタ自動車工業へ入社以来、人事部(海外人事関係)、経理部(債権債務管理)、財務部(輸出入経理)などの本社機能 を経て、現場の本社工場・原価グループ(鍛造工場能率・製造予算管理、たな卸し本社工場事務局)、本社工場・生産管理室(車体・塗装・組立工場生産管 理)、米州事業部(海外生産車の原価企画)、田原工場・原価グループ(成形工場能率・製造予算管理)、田原工場・生産管理室(エンジン・鋳造工場生産管 理)、などを経験。
一貫して、トヨタ生産方式の「石垣」ともいえる「生産管理・原価管理・要員調整」の実務を担当し、さらに「天守閣」としての「トヨタ生産方式現場改善」までを実践。トヨタ生産方式部課長自主研メンバー。「かんばんのフローラックラベルへの活用」等で、多数の表彰を受ける。
2004年、基幹職(課長級以上)のチャレンジキャリア制度(転出促進制度)に応じ、40代でトヨタ自動車を退職。
退職後、オーエスジー株式会社へ入社し、トヨタ生産方式の導入に活躍。
2007年、オーエスジーを退職し、豊田生産コンサルティング株式会社を設立。