トヨタの生産方式に関して

「TPSルーム」 第35回

青木幹晴

トヨタ自動車の改善体制は、本社に生産調査部があり、ここがトヨタ自動車並びにトヨタグループ全体を統括している。
そして各工場にも、TPS推進チームがある。
この工場のTPS推進チームは、生産部門会議(現在はこの名称ではない)での発表をその主眼に置いている。
「生産部門会議とは」
トヨタはすべての部署で『能率管理』を行っている。これはすべての加工部品の加工工数を会社が査定するものだ。工場が新しい部品の加工を開始する場合、その加工工数を技術員室が計測し、本社生産管理部査業課へ申請する。査業課は、他工場の類似部品の加工工数実績との対比等を行い、その申請が会社として認められるレベルかどうか精査する。そして他工場に類似部品がないような新たな部品の場合、直接工場へ出向いて、現場で工数測定などして決定する。このようにして、トヨタのすべての加工工数は会社の管理下に置いている。
そして、すべての部品について、下記の値を毎月算出している。
「1個当りの基準工数×加工個数」>「実際の加工実績工数」=「改善工数」
「1個当りの基準工数×加工個数」<「実際の加工実績工数」=「赤字工数」
これを能率管理というが、最少単位(原単位)がすべての部品のため、班、組、係、課、部、工場、全社のすべての組織単位について、この能率管理の数値の算出がである。
この能率管理の結果及び変動費予算管理の結果をもとに毎月、各課、各部、各工場、で原価会議が開催される。
そしてこの能率管理の全社数値については、毎月、副社長出席のもと生産部門会議として、各工場持ち回りで開催される。これには全工場の次長以上が出席する。
この会議では前月の全社の能率の結果が報告されるが、それ以外に2つの課で現場での改善報告が行われる。
トヨタは会社規模が大きいため、この現場改善報告は1つの課としては5年に1回ほど回ってくる。この現場改善報告の指示を受けた製造課は6ヶ月前からその準備を始める。
これを自主研活動と言っている。
メンバー・・・他の製造課の課長数名、当該課課長、係長、技術員
活動日時・・・毎週火曜日の午後(工場のすべての会議等の行事はここに入らない。入ると課長が出席できなくなる)
予算措置・・・通常ではできない大きな改善になるため、しっかり予算措置が行われる。
私は、生産管理課の課長をやっていたため、毎回指名されて大変だったが、すごく勉強になった。
そして改善活動が始まるのだが、TPSルームを作って改善項目はすべてそこに貼ってみんなで議論する。また途中経過など、工場幹部などへ説明するが、それもすべてTPSルームへ来てもらって、掲示資料で説明し、すぐに現場を見てもらう。まさに現地現物とはこのことだと思っている。
そして生産部門会議本番の発表は、改善現場の真横に巨大なボードを持ってきて、それへ改善内容を大書して多くの参列者に聞いてもらうようにする。今はパソコンで簡単に書けるし、大きくコピーもできる。しかし私のころはすべて手書きだった。本当に大変だった。
青木幹晴(あおき みきはる)プロフィール
1955(昭和30)年、愛知県豊橋市生まれ。
1978(昭和53)年、早稲田大学商学部を卒業。
トヨタ自動車工業へ入社以来、人事部(海外人事関係)、経理部(債権債務管理)、財務部(輸出入経理)などの本社機能 を経て、現場の本社工場・原価グループ(鍛造工場能率・製造予算管理、たな卸し本社工場事務局)、本社工場・生産管理室(車体・塗装・組立工場生産管 理)、米州事業部(海外生産車の原価企画)、田原工場・原価グループ(成形工場能率・製造予算管理)、田原工場・生産管理室(エンジン・鋳造工場生産管 理)、などを経験。
一貫して、トヨタ生産方式の「石垣」ともいえる「生産管理・原価管理・要員調整」の実務を担当し、さらに「天守閣」としての「トヨタ生産方式現場改善」までを実践。トヨタ生産方式部課長自主研メンバー。「かんばんのフローラックラベルへの活用」等で、多数の表彰を受ける。
2004年、基幹職(課長級以上)のチャレンジキャリア制度(転出促進制度)に応じ、40代でトヨタ自動車を退職。
退職後、オーエスジー株式会社へ入社し、トヨタ生産方式の導入に活躍。
2007年、オーエスジーを退職し、豊田生産コンサルティング株式会社を設立。