1.自『動』化から自『働』化へ

 人類の一番最初のものづくりの方法は、一人が手作業ですべての工程を行って品物を完成させていました。しかし一人ですべての工程をやっていると習熟が進まないので、あまり沢山造ることができませんでした。そこで工程を複数に分割し、それぞれの工程を決まった人に造らせるようにしました。するとそれぞれの人は、担当した工程の習熟が進み、今まで以上に多く生産できるようになりまし た。これは「分業化」であり、第1次産業革命と位置づけらました。

 次に1785年にイギリスのワットが蒸気機関を発明したことから始まる第2次産業革命により、今まで人がやっていた 手作業を機械に置き換えることができるようになりました。しかしここで大きな問題が起きました。それは資本家が巨額な資金を投入して機械化しても、作業者が手作業しなくてよくなっただけで、作業者を機械から開放することができなかったのです。そのため労務費は以前と同じように発生し続けたのです。

ではなぜこんなことが起こるのか、作業者の作業内容をここで分析してみましょう。

 第2次産業革命は「自動化」であると言えます。この「自動化」では、上記の 「①作業者が作業している」が「①機械が作業している」に変わっただけで、あとの②~⑥はすべて作業者が行わなければなりません。ということは「②作業者が異常を発見する」「③作業者が機械を停める」ということがある限り、作業者は機械が作業しているのをじっと監視していなければならず、この機械から離れることができません。

自動機械

監視中の

作業者

これでは資本家がたまったものではありません。資本家は高額な設備投資額を 払って、作業者を楽にしてあげただけで、労務費は以前と同じように発生し続けるのです。これでは儲かるどころか赤字になってしまいます。そして設備投資なんかしなかった方がよいとまで考えたことでしょう。

 この問題点を解決したのが豊田佐吉です。佐吉は当時すでに欧米にあった自動織機に対して、糸が無くなったり、糸が切れたり、機械に不具合が発生したりした場合に、機械がそれを自ら感知して自動的に停まる機能を付加したのです。すなわち次のように作業者から機械へ置き換えを実現させたのです。

②作業者が異常を発見する⇒機械が異常を発見する

③作業者が機械を停める⇒機械が自ら稼働を止める

これにより不良品が大量に出てしまうことを、機械的に防ぐことが可能になったため、作業者は監視(閑視)から開放されたのです。さらに機械が自動停止した場合、高い位置に設置されたあんどんが点灯するようにさせたため、作業者はこの機械から遠く離れることができるようになり、多くの機械を担当することを可能にしました。

 佐吉は、このような自動停止機能が付加された機械を自『働』化機械と呼ぶことにしました。その理由は、この機械はた だ単に作業を行うだけでなく、人の行っていた「異常発見」「設備停止」を替わりに行うようになったのだから、人間の働きをするようになったという意味で自『働』化にしたのです。

 この自働化により、労務費の削減が可能になったのですから、資本家はもう何の不安もなく設備投資ができるようになりました。したがってこの自働化を第3次産業革命と位置づけることができます。

① 作業者が作業している

② 作業者が異常(不良品・機械不具合等)を発見する

③ 作業者が機械を停止する

④ 作業者が異常に対する処置を行い機械を再稼働させる

⑤ 作業者(監督者)が異常の原因を追求する

⑥ 作業者(監督者)が再発防止策を検討し実施する

2.平準化とは

豊田佐吉は、自動織機で儲けたお金をすべて自動車製造につぎ込みました。そして息子の豊田喜一郎にそれをやらせました。自働化の発想が自動織機製造から自動車製造に引き継がれました。

そんなある時、豊田喜一郎は、「毎日、部品倉庫からその日必要な部品を取り出してきて組立てライン側に置いて使っている。組立ラインが必要とするのに合わせて、ジャスト・イン・タイムに部品がここの届くようにできないだろうか」とつぶやきました。

それを大野耐一という若い技術者が聞いてハッとしました。彼は「アメリカにはスーパーマーケットという商店があって、そこではお客が必要な品物を陳列棚から取ると、自動的に補充されていくそうだ。工場の部品倉庫をスーパーマーケットみたいにできないだろうか」と思いついたのでした。そこでアメリカ出張させてもらって、スーパーマーケットの実物を見て研究しました。

 そして試行錯誤の結果、次のような方法を考えつきました。

① すべての細分化した工程の作業時間を同一(この例だと2分)にする

② 組立ラインでの車両の仕掛け順は、同一車種の間隔を同じにする。これを『平準化』仕掛けと名付けた。(例えば8時間稼働で8台つくる車両は、1時間に1台ずつ流す)

③ 必要な部品は後工程(組立ライン)が前工程(加工ライン)へ引取りに行く

④ 前工程(加工ライン)はそのまた前工程(鋳物ライン)へ粗材を引取りに行って加工を行う

 それでは下図で平準化した工場とそうでない工場を比較してみましょう。平準化した工場では、後工程が前工程から部品を引っ張っていることが分かります。工場の工程内には不要な在庫がまったくないからそれが実現できるのです。少しでも不要な在庫があれば、いくら引っ張ってもそこで絡んでしまって引っ張ることができません。

 逆に平準化していない工場では、前工程から後工程へ部品が押し込まれていることが分かります。このような状態だと工場中が部品だらけとなってしまって、不良が発生したような場合などすべての在庫を1つ1つチェックしていかなければなりません。作業者も多くの在庫でケガをする危険が増します。改善しようと思っても、何をどうしていいのか分かりません。

3.トヨタでの平準化の実態

通常、お客様からの注文は全世界からバラバラに入ってきます。これは仕方のないことですが、工場がこの注文通り忠実に生産したとしたら、作業者に遊びが発生してしまいます。下の例でみてみますと、この1ヶ月の最も高負荷に対しては6名投入しなければなりませんが、そうするとすぐに負荷が少なくなってしまい、作業者が遊んでしまうことになります。そこで1ヶ月間の日当り生産高を一定にすれば3名投入すればよいことになります。そうすればこの3名にはまったく遊びが発生しません。

 下の図は、トヨタの3ヶ月間の生産計画のイメージ図です。横軸に1月(稼働日20日)、2月(稼働日20日)、3月(稼働日20日)と日を並べています。縦軸は1日の稼働時間で、下から上に向って時間が過ぎていきます。これでお分かりいただけるように、トヨタは1ヶ月間は日当り生産数量をまったく同一にしています。さらに青車型、赤車型、黄車型という順番にして、同一車型が固まって流れることがないようにしています。こうすることですべての部品が1日を通じて平均して使用されます。

 トヨタはかんばん方式で有名ですが、かんばんはこのような平準化した仕掛け状態でないと回転しません。

 トヨタは、トヨタ自動車を頂点として、1次下請けメーカー、2次下請けメーカー、3次下請けメーカー・・・・というように巨大な生産ピラミッドを形成しています。この全体を無駄なく効率的に運営させるためには、どうしても生産数量の固定が必須条件となります。しかしそれにも限度があるため、1ヶ月を単位として固定させます。ですから1月、2月、3月と生産数量が月単位で変動しています。

 トヨタは1次下請けメーカーに平準化した生産計画を提示します。次に1次下請けメーカーは2次下請けメーカーに平準化した計画を提示します。さらに2次下請けメーカーは3次下請けメーカーに同じことを行います。こうやって生産ピラミッドの一番下のメーカーまで平準化を浸透させるのです。こうすればトヨタが引っ張れば一番下のメーカーまでその引っ張りが届くのです。これができるのは、トヨタの生産ピラミッドのすべてに不要な在庫がまったくないからです。

 ところが営業部としては、このようなことをされると非常にやりにくくなります。しかしトヨタは現場の発言力が強烈に強い会社で、且つ同族企業です。その創業一族が、現場の意見を徹底的に支持しているため、営業部はそれに従うしかなかったのです。ですから、もしトヨタが同族企業でなかったら、この平準化は絶対に実現せずトヨタ生産方式は成立しなかったと思います。一般会社のサラリーマン経営者では、営業部を説得することは到底できないからです。

 ここで一般会社の生産ピラミッドを見てみましょう。頂点の会社を含めて、すべての会社が倉庫を持って部品を蓄えているため、頂点の会社は営業部の指示通りに好きなように生産計画を変更します。工場も“お客様は神様です”と言われれば反論できないのです。それに在庫(倉庫)を持つことが許されていますから、どんな無理な要求も受け入れることができるのです。まさに在庫は媚薬で、在庫があればどんなことでもできてしまいます。しかしそこには膨大な無駄が発生します。

 ある部品メーカーが地震等の被害で長期に渡って稼働できなくなったような場合、トヨタは工場の稼働をすぐに停止します。在庫がないのだから当然のことです。そしてトヨタグループ総動員でその部品メーカーへ乗り込んで復旧に注力します。しかし他の自動車メーカーは1週間ぐらいは稼働を継続しています。これは多くの在庫を持っている証拠です。

このことを見て、世間の人達やマスコミは「トヨタは在庫をまったく持っていないため、このような時、工場の稼働を維持できなくなってしまう。これはトヨタ生産方が間違っているからだ」といったことを声高に言います。しかしトヨタは、在庫を持とうとは一切考えません。なぜなら在庫の害毒が企業の屋台骨を蝕むことを十分認識しているからです。

4.かんばん方式とは

 この絵はトヨタ組立ラインが平準化して生産しているイメージ図です。その中で●の部品は1日8時間で8個使用されています。そしてその使用される間隔は一定になっていますので、8時間÷8個=1時間/個ということで、1時間に1個使用されていることが計算できます。

トヨタ組立ラインで●部品が使用されると、そこに添付されているかんばんが●部品メーカーへ振り出されます。その振り出されたかんばんは部品メーカーの納入便の運転手が持ち帰ります


  この絵ですと、●部品メーカーのトヨタ組立ラインへの納入便は1日8時間で4便あります。ということは2時間ごとに納入しているということです。したがって1回の納入便が●部品のかんばんを2枚持ち帰り、次の納入便で2個の●部品にそれぞれかんばんを添付してトヨタ組立ラインに納入します。また●部品メーカーでも、この●部品を1時間に1個生産します。そうすれば完成し次第トヨタが引き取ってくれることになりますので、完成品在庫を持つ必要がありません。


 このようにトヨタ組立ラインと部品メーカーとの間では、「平準化」「定期便」「かんばん」という3つの要素により在庫ゼロを実現しているのです。しかしもちろんトヨタ組立ラインも時としてトラブルを起こしラインがストップすることがあります。そんな場合は部品が使用されないのですから、かんばんは振り出されません。かんばんが添付されてない部品はトヨタへ納入できないので、当然部品メーカーの生産もストップします。トヨタが引き取ってくれないのですから、部品メーカーが生産し続けても不要な在庫が増えてしまうだけです。ですから部品メーカーが生産をストップすることは無駄を発生させない良いことなのです。


 部品メーカーはかんばんが順調に振り出されてくると、「トヨタ組立ラインは問題なく稼働しているな」ということを知ることができます。反対にかんばんが振り出されて来ないと「トヨタ組立ラインになにかトラブルが発生しているな」ということを知ることができます。ですからかんばんは、前工程の生産状況を後工程へ伝える道具ということが言えます。これを「かんばん方式」と呼んでいます。

 かんばんが回転するには工程内に不要な在庫がゼロで、なおかつ完璧な平準化が要求されます。したがってトヨタ自動車以外の会社ではかんばん方式は成立していないのではないかと思っています。


第二段へ続く・・・

1955(昭和30)年、愛知県豊橋市生まれ。

1978(昭和53)年、早稲田大学商学部を卒業。

トヨタ自動車工業へ入社以来、人事部(海外人事関係)、経理部(債権債務管理)、財務部(輸出入経理)などの本社機能を経て、現場の本社工場・原価グループ(鍛造工場能率・製造予算管理、たな卸し本社工場事務局)、本社工場・生産管理室(車体・塗装・組立工場生産管理)、米州事業部(海外生産車の原価企画)、田原工場・原価グループ(成形工場能率・製造予算管理)、田原工場・生産管理室(エンジン・鋳造工場生産管理)、などを経験。

一貫して、トヨタ生産方式の「石垣」ともいえる「生産管理・原価管理・要員調整」の実務を担当し、さらに「天守閣」としての「トヨタ生産方式現場改善」までを実践。トヨタ生産方式部課長自主研メンバー。「かんばんのフローラックラベルへの活用」等で、多数の表彰を受ける。

2004年、基幹職(課長級以上)のチャレンジキャリア制度(転出促進制度)に応じ、40代でトヨタ自動車を退職。

退職後、オーエスジー株式会社へ入社し、トヨタ生産方式の導入に活躍。

2007年、オーエスジーを退職し、豊田生産コンサルティング株式会社を設立。


青木幹晴(あおき みきはる) プロフィール

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