1.トヨタ生産方式における“管理”とは何か

【改善前】<加工工程>ロット生産

 この管理者は、ある製品について客先から緊急に納入するように要請があって、あわてて現場へきました。そして作業員に「今仕掛けている○○製品はいつごろ完成するのか?」と聞きます。その作業者は「そうですねぇー、全部の工程を通さなくちゃいけないんで、あと2日ぐらいかかりますかねぇー」という回答が返ってきます。こんな寝ぼけたことを言っているようでは、客先にそっぽを向かれてしまいます。 

 さらにロット生産の作業者は、「在庫が溜まったから移動させよう」「この型で型打ちできる製品を優先させるから、あの製品のロットをこちらへ持ってこよう」というように常に自分で考えながら作業をしています。

 管理者は、「作業者が何をしているのかさっぱり分からない。しかし、まあ、彼はベテランだから彼に任せておけばしっ かりやってくれるはずだ」と思っています。しかしどんなベテランでもひょっとして不良を出してしまったり、ケガをしてしまうようなことは必ず発生します。そんな場合、管理者はその責任が取れません。ならばこの管理者は、管理者とは名ばかりで“無”管理者というべきです。 

【改善後】<加工工程>1個流し生産

 1個の製品がすべての工程を流れていきます。ですから常に完成品ができ続けます。もし客先(前工程)が緊急に必要になった場合は、その完成品を特別便で送ってあげればよいだけです。その際、ひょっとしてそれが大量に必要だったとしても、客先にしてもすぐには作れないのですから、客先が作るペースで特別便で送り続ければこの急場はしのげます。

自動機械

 この1個流しラインではすべての工程の加工時間を合計すれば、1個の製品ができあがる生産リードタイムが算出できます。たとえばある1個流しラインでは120秒【2分】で1個完成させることができるとしますと、1時間【60分】では30個【60分÷2分=30個】できることになります。すべてが1個流しラインであるトヨタでは、そのすべてのラインで1時間ごとの生産予定数と生産実績数を比較し、もしも生産実績数が少ない場合は、その理由を徹底的に調査し対策を打ちます。これを生産管理板により管理といいます。

 また作業者は手に持った1個の製品を工程の順番に作業していきます。そして一定時間作ったら、次の作業者へ渡します。そうすると次の作業者も工程順に作業を一定時間していきます。こうなるとすべての作業者が一定時間、同じ作業動作を繰り返すことになります。

 ところで実力、経験、技量等のすべてが抜きん出て、初めてラインの管理者に任命されます。もしもこのような1個流しラインのすべての工程を管理者が一人で作業を行なえれば間違いが起こるわけがありません。しかしそんなことは不可能ですので、管理者は自らの経験を結集させて、すべての工程の標準作業票を作成します。そして作業者にその標準作業票を示し、それを100%守らせます。これにより管理者は作業者の安全を確保でき、作業者に不良品を作らせないようにすることができるのです。まさにこれが“管理する”ということなのです。

2.生産管理板による管理

 生産管理板には、1個流しラインで1時間ごとの予定数と実績数を記入していきます。すると予定数までできた時間もあるし、できなかった時間もあります。そこで予定数までできなかった時間を徹底的に分析して、「なぜ、できなかったのか」その原因を追求します。この場合、「なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?」と5回以上繰り返すことが重要です。なぜなら真因は奥の奥に潜んでおり、そう簡単にはそこまで至らないからです。そしてこのような粘り強い活動を続けていけば、そのうちすべての時間で予定数と実績数が同じになっていきます。

 製造課長のみならず製造部長も時間があけば現場巡廻して、生産管理板をのぞき、実績数が少ない場合は、ライン管理者を呼んで、それに対する手を打っているか確認します。こうすれば上位者も現場の実態を把握できますし、現場サイドもうかうかしていると叱られるので毎時間即座に行動するようになります。このように現場作業とは問題解決の連続なのです。

 下は生産管理板のサンプルです。ここで重要なのは、毎時間の累計値も記入させるということです。たとえば製造課長がこの現場を巡視し14:00に生産管理板を覗いたとします。その際、累計計画数1,800個に対して、累計実績数1,695個、累計差105個というふうに表示してなければ、問題点がすぐに 認識できます。 

 昨年、ポーランドに改善指導に行ったのですが、その際、この生産管理板の説明をしました。すると彼等はこの有用性を非常に納得してくれました。そして大きい方が全員に周知できるということで、写真のような大型サイズのものを作ってしまいました。「世界のどこであろうともやる気にある人は、すごいことを思いつくなあ」と感心させられました。

 また、中国ではさらに進んで、ホワイトボードへ記入しようということになりました。これなら非常に手軽に書けます。しかしここで重要なことは毎日、この写真を撮ってプリントして脇に保存しておくことです。生産管理板は過去の状況も常に確認し現状と比較しながら改善状況や悪化状況を知る必要があるからです。

 これはある機械加工のU字セルラインの標準作業票です。作業者の作業は「それぞれの機械加工後の品質チェック」「ワークの機械間搬送(コロコロコンベア上を手押し)」「起動」の3つに大別されます。ここには細かい品質チェック内容やケガをしないような動きの指示などが記載されています。作業者が100%これを遵守することが安全や品質を確保する上で絶対条件なのです。ですから監督者は常に現場を巡廻し、作業者が標準作業票通りの作業を行っているか目を光らさなければなりません。

 しかしもちろん作業者も作業をしている中で、この標準作業票の内容より、効率的なことを考え出すことがあります。そのような場合は、すぐに創意工夫提案を出して上司に確認を取り、それが認められたら標準作業票の内容を改定します。こうやって標準作業票を改定しない以上、どんな立派な方法も実施してはいけないことになっています。

 このような改善提案⇒標準作業票の書換えは日常的に実施されています。ですから標準作業票がぜんぜん改定されずホコリをかぶっているような状況があると叱られてしまうのです。これも「見える化」の事例だと言えると思います。

3.標準作業票による管理

1955(昭和30)年、愛知県豊橋市生まれ。

1978(昭和53)年、早稲田大学商学部を卒業。

トヨタ自動車工業へ入社以来、人事部(海外人事関係)、経理部(債権債務管理)、財務部(輸出入経理)などの本社機能を経て、現場の本社工場・原価グループ(鍛造工場能率・製造予算管理、たな卸し本社工場事務局)、本社工場・生産管理室(車体・塗装・組立工場生産管理)、米州事業部(海外生産車の原価企画)、田原工場・原価グループ(成形工場能率・製造予算管理)、田原工場・生産管理室(エンジン・鋳造工場生産管理)、などを経験。

一貫して、トヨタ生産方式の「石垣」ともいえる「生産管理・原価管理・要員調整」の実務を担当し、さらに「天守閣」としての「トヨタ生産方式現場改善」までを実践。トヨタ生産方式部課長自主研メンバー。「かんばんのフローラックラベルへの活用」等で、多数の表彰を受ける。

2004年、基幹職(課長級以上)のチャレンジキャリア制度(転出促進制度)に応じ、40代でトヨタ自動車を退職。

退職後、オーエスジー株式会社へ入社し、トヨタ生産方式の導入に活躍。

2007年、オーエスジーを退職し、豊田生産コンサルティング株式会社を設立。

青木幹晴(あおき みきはる)プロフィール

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