1. 製造変動費予算管理とは

 工場では製品を製造するため、原材料・補助材料・エネルギー等が大量に使用されます。工場が増産になればそれらは多く使用され、逆に減産になれば少なくなります。このようにその使用量が常に変動するため、どうやって管理していいのか分からず、結局何も管理をしていないというのが一般の企業の実態ではないでしょうか。

 しかしトヨタでは、工場で生産のために使用されるすべての物品について画期的な方法で管理しています。それを下図でご説明します。

 これはある機械での潤滑油を管理の対象とした事例です。この機械では1月1ヶ月間の製品合格数が29,300個でしたが、この生産のために使用した潤滑油が295Lでした。次に2月1ヶ月間では30,100個の製品合格数を出すために301Lの潤滑油を使用しました。こうやって6月まで毎月これらの数字を記録していきます。そうすると1月から6月までの6ヶ月間での製品合格数が176,600個で、それに使用した潤滑油の合計が1,755Lでした。そこで“製品合格数1個あたりの潤滑油使用量” (これを“原単位”といいます)を算出してみます。


6ヶ月間合計の潤滑油使用量1,755L÷6ヶ月間合計の製品合格数176,600個=0.00994L/個


この原単位0.00994L/個は、6ヶ月間平均の使用量(実力値)ということになります。そしてこの原単位0.00994L/個を基準(予算)として、次の6ヶ月の原価管理を行います。それではその比較方法を具体的にみてみましょう。

 7月の製品合格数は33,100個でしたので、前6ヶ月間平均の実力だと329Lですむはずです【33,100個×0.00994L/個=329L】。しかし7月の使用実績は350Lでしたので、21L【329L-350L=▲21L】多く使ってしまったということが分かります。

 そこでここのラインの管理者は1月から6月の半年間の稼働状況と7月単月のそれを比較してみて、相違点を調査します。直近6ヶ月間の稼働状況ですので肌で覚えているはずです。ですから7月の悪かった点は容易に見つけられます。そしてすぐに対策を打ち、直近6ヶ月の状態に戻します。過去にはできたのですから、簡単に戻るはずです。また改善とは直近6ヶ月の状態よりさらに良くしなければならないのですから、それより悪化していては話にならなのです。

 そして努力の結果、11月には予算が278Lなのに、実績が250Lですみ28Lの改善が出ています。ということは現場は、直近6ヶ月でやっていなかった事を新たに考えて行動したから効果が出たのです。現場管理者は、早速その具体的な改善内容を毎月開催される原価会議で報告します。この目的は次の3つです。

① 改善をやってくれた作業者を褒めることができます


② 改善内容を部長に報告します。部長のような上位者は、現場にそれほど行けませんし守備範囲が広いため、このような指標がないと現場の状況が把握できません


③ 改善内容を他の管理者・作業者にも紹介し横展してもらいます

 この変動費予算管理は6ヶ月ごとに原単位を算出していって、改善が出ればそれが次の6ヶ月の予算になります。この図では「今期」が赤字になっています。「前期」より悪化してしまったのです。この場合、「来期」の予算は「前期」の実績となります。『「今期」はだめだったけど、「来期」はもう一度「前期」に挑戦しなさい』ということです。これを見てお分かりのように、一度やった改善は永久にそれをやり続けなければならないスキームになっているのです。

 一度やった改善は、長い期間が経過すると元に戻ってしまうことが往々にしてあります。悪意があって戻してしまうので はなくて、人間はいいかげんな生物で忘れてしまうものなのです。その点、この変動費予算管理のスキームは人間の忘却を許しません。したがって工場改善活動には“絶対に”必要なものなのです。

 さらにこの写真には熱処理炉の事例をつけました。鋼の丸棒を炉で加熱してから焼き入れしています。この場合の管理対象物は炉の燃料です。そのパラメータ(操業度)は鋼の丸棒の合格重量になります。


 ところでトヨタでは、非常に多くの費目、品目がこの変動費予算管理の対象になっています。したがって各管理者も多くある機械の中の1つの機械の潤滑油の改善内容まで把握することはとても難しいです。そこでトヨタでは創意工夫提案制度により、どんな小さな改善でも提案・報告させるようにしています。作業者はどんな小さな改善でも自分で考えてすぐに実施してしまい、実施後に創意工夫提案用紙に記入し提出して賞金をもらいます。最低でも500円もらえます。ですからいい小遣い稼ぎになるのでみんなどんどん出します。

 管理者は、みんなから提出された創意工夫提案用紙の束をひっくり返して、改善のあった機械の潤滑油の提案がないか探すわけです。そしてもしあれば、それをやってくれた作業者に「君のやってくれた潤滑油の改善が、変動費予算管理に効果としてのぼってきたよ。本当にありがとう。引き続き頑張ってやって下さい」と褒め且つ意識付けすることができます。


 さて話は変わりますが、改善活動とは試行錯誤の連続です。たとえば労務費の改善をしようとある改善をやってみたら、確かに労務費は狙い通り下がったけれど、逆に補助材費が上がってしまったといったようなことは日常茶飯事です。闇夜に鉄砲を撃ちまくったら偶然当たったといった感じですね。しかしこのように打ちまくることが大切なのです。

 創意工夫提案制度では、このように鉄砲を撃てば、「当たっただろう」ということで論理的に合理的ならば賞金を出して しまいます。しかし本当に当たり効果額が出たかどうかは、変動費予算管理の結果をみてみなければ分かりません。ですから会社トータルでの創意工夫提案の効果額総額と変動費予算管理の効果額総額とは、必ず「創意工夫提案の効果額総額」>「変動費予算管理の効果額総額」という関係になります。

 これを前掲の事例で見てみますと、創意工夫の効果額は、11月の28L、12月の59Lで提案者にそれぞれ賞金が支払われます。しかし変動費予算管理では7月から12月の合計効果額である24Lなのです。会社はこの24Lしか実際には儲かっていないのです。

 変動費予算管理を導入しているトヨタ幹部ならこのことは熟知していますが、変動費予算管理を導入せず、創意工夫制度だけ導入している会社のトップは「トヨタが創意工夫制度を導入してすごく儲けているので、我が社も導入してみた。確かに創意工夫提案がいっぱい出されて改善効果額もどんどん上がっている。しかし会社の決算利益はそれほど上がっていない。これは創意工夫提案の評価がいい加減のお手盛りではないのか。それでどんどん賞金を持っていかれたのでは会社はたまらないよ」ということで、せっかくの創意工夫制度を廃止してしまうことがよくあるようです。

 改善をどんどんやることは活性化させるという意味で非常に重要なのですが、それをきちっと評価する仕組みがないと、やりっぱなしで元に戻ってしまって長続きしないのです。

2. 重点管理

 ところがすべての品目を変動費予算管理するとは言っても、膨大な補助材料などは全部管理することは物理的に不可能です。そこで使用量、使用金額が大きな品物に重点指向します。トヨタでは下図のような表を現場に提示して効果の最大化を考えさせています。

 補助材料で重点指向に漏れた物品は少額多種類の小物であり、さすがに生産に変動して必要にはなりません。しかしなんらかの管理をしなければ使いたい放題になってしまいます。そこで考え出されたのが、稼働日1日あたりの予算化です。


6ヶ月間の係トータルの使用金額÷6ヶ月間の稼働日=6ヶ月間の1日あたり使用金額


 この6ヶ月間の1日あたり使用金額を次の6ヶ月間の予算にします。

 たとえば予算立案期間である7月から12月までの6ヶ月間の使用金額合計が173,810円。そしてこの6ヶ月間の稼働日合計が126日。

 173,810円÷126日=1,379円/日・・・・これが1月から6月の予算になります。

 1月は稼働日が20日なので、予算金額は27,589円【1,379円/日×20日=27,589円】となります。しかし実際の使用金額が310,000円だったので▲3,411円使い過ぎてしまいました。そこで監督者がその原因を調べたところ、新人が手袋を必要以上に使ってしまったことが分かりました。そこで限度見本を作って、どのくらいの汚れで新しいものに交換するかのルールを決めました。

 このようにして1月から6月までこの管理をしてみたら、次のような結果になりました。


 1月から6月の使用金額178,000円。1月から6月の稼働日121日。

 日あたり使用金額1,471円【178,000円÷121日=1,471円/日】


 これでは予算立案した前の6ヶ月より赤字になっています。これでは改善どころの話ではありません。そこで次の6ヶ月の予算は引き続き1,379円/日が適用させ、改善努力をしてもらいます。

3. 製造固定費予算管理

 上海のある日系企業で、製造変動費予算管理と製造固定費予算管理の両方をやってもらいました。そして大きな効果を出すことができました。

 そこの日本人総経理のNさんが次のような感想を述べてみえました。

 「製造変動費予算管理は、大量品が対象なので、大きな効果が出てすごい仕組みだと感心しました。その後追加で、青木さんから製造固定費予算管理の説明を受けましたが、正直なところ手袋とか細々した物品なんか管理しても大した効果なんか出るはずはないからやりたくないと思いました。しかし青木さんがうるさいく言うので、仕方なしにやることにしました。

 そうすると実施している中国人が予算額や実績額を頻繁に聞いてくるようになり、ものすごく気にかけて生産活動をしていることが分かりました。そこでハッと次のことに気づきました。

 『このような小物の改善ができなくて大物の改善なんかできません。小物の改善心が大物の改善心に移っていくのです。確かに大物を重点指向して大きな改善額を狙うことも重要だと思いますが、やはりそれは小物の改善をおろそかにしてはだめなのです』

 ここまでいくと、改善は哲学の域に達していますね。

1955(昭和30)年、愛知県豊橋市生まれ。

1978(昭和53)年、早稲田大学商学部を卒業。

トヨタ自動車工業へ入社以来、人事部(海外人事関係)、経理部(債権債務管理)、財務部(輸出入経理)などの本社機能を経て、現場の本社工場・原価グループ(鍛造工場能率・製造予算管理、たな卸し本社工場事務局)、本社工場・生産管理室(車体・塗装・組立工場生産管理)、米州事業部(海外生産車の原価企画)、田原工場・原価グループ(成形工場能率・製造予算管理)、田原工場・生産管理室(エンジン・鋳造工場生産管理)、などを経験。

一貫して、トヨタ生産方式の「石垣」ともいえる「生産管理・原価管理・要員調整」の実務を担当し、さらに「天守閣」としての「トヨタ生産方式現場改善」までを実践。トヨタ生産方式部課長自主研メンバー。「かんばんのフローラックラベルへの活用」等で、多数の表彰を受ける。

2004年、基幹職(課長級以上)のチャレンジキャリア制度(転出促進制度)に応じ、40代でトヨタ自動車を退職。

退職後、オーエスジー株式会社へ入社し、トヨタ生産方式の導入に活躍。

2007年、オーエスジーを退職し、豊田生産コンサルティング株式会社を設立。

青木幹晴(あおき みきはる)プロフィール

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