上の写真をご覧いただきたい。これはある純粋中国企業のロット生産の写真だ。このロット生産の問題点を以下に列挙する。

① 手待ちが発生する

・各作業者に作業を分割しているが、正確に均等な時間には分割できない。製品は一番作業時間のかかる工程の速さでしか完成しないため、短い作業時間の作業者には手待ちが発生してしまう。


② 不良品が大量発生する可能性が大きくなる

・1人の作業者が連続して同じ作業を多数のワークに施すため、もし不良品を発生させる行為をしている場合、それに気づかず大量に発生させてしまいがちである。さらに次工程の作業者も、自分に指示された作業を多数のワークに施すため、他の部位の不良に注意がいきにくく、不良の発見がされにくい。従ってどこかの工程で発生させた不良は最終工程まで流れていってしまうことが多い。そうなると、その廃棄品にはすべての工程の原価 がオンされているのであり、会社に甚大な損害を与えることになる。

・最終工程での検査で不良品が発見されても、もうその製品にはすべての工程の作業が施されてしまったあとなので、分解等をしなければ原因を追及することができない。原因が追及されない以上、的確な対策が打てず、その不良は発生し続ける。


③ 工程内に大量の仕掛品が発生する

・工程内に多くの仕掛品を持った状態で休憩に入り持ち場を離れ、そしてまた作業を再開する場合、どのワークから再開すればよいのか分からなくなってしまう可能性が大きい。こうなると部品欠でワークを流してしまう危険性がある。

・工程内に多数の仕掛品を持っていると、多くの部品箱が必要になるとともに、大きなスペースをとってしまう。

・工程内に多数の仕掛品を持っていると、それを動かす工数がかかってしまうし、それを扱っている際にキズをつけたりして不良品や手直し品にしてしまうこともある。

・工程内に多くの仕掛品を持っているため、加工作業や組付け作業をしていても、それらを中断して仕掛品の整理・運搬作業をしなければならなくなる。従って標準作業・標準時間が設定できないため、生産管理板での管理もできない。このような無管理状態では、作業者は作業をせずにサボっても外部からは分からないので、それを防止するため出来高制賃金制度を採用することになる。こうすれば作業者はお金になるため必死に仕事をする。しかしこれにより作業者間の出来高に従来以上の差が生ずることになる。結局、最低出来高でしか完成品にならないのであって、それ以上に造った物はすべて仕掛品在庫となりコストアップ要因になる。


④ あるべき姿である完全自働機械・自働搬送ラインへの進展ができなくなる。

1.中国企業でのロット生産の問題点

ロット生産では工程の進化は一切できない

【ロット生産】

【1個流し生産】

・ロット生産だと工程内に大量の仕掛品が存在する。もしこれを自働化ラインに するとしたら、それらの仕掛品の処理も考えなければならないため、非常に大型の機械を導入しなければならなくなる。トヨタのエンジン工場などは生産リードタイムが8時間もかかる1個流し完全自働化ラインを実現しているが、このような工場でもし工程内に大量の仕掛品を抱えていたら、完全自働機械・自働搬送ラインの設計はスペース的、コスト的に不可能なはずだ。


⑤ 生産が減った場合でも定員(この例の場合は7人)が必要になる

・もし1日の生産が1/7になったとしたら、1人が1日かけて必要量を作れば労務費が損することはない。しかしロット生産の場合は、7人が作業に入って1時間ほどで1日分ができてしまい、残りの時間は遊んでしまう。


⑥ 作業者の欠勤が怖い

・7人それぞれが、工程の1/7である自分の担当の作業しかできないため、1人でも欠勤したらスムーズな生産活動ができなくなってしまう。またその中でも特に熟練度を要する工程の作業者が休んだら、生産活動自体ができなくなってしまう。

2.工程進化の道程

工程を進化させる前提条件は、1個流しラインにすることだ。その1個流しラインは、次のように進化させていく。


Ⅰ.手作業ライン

・1個流しラインだが、各工程の作業が人による手作業である。この場合、新人と熟練者との工数差が大きく、新人への作業訓練が必要となる。やはり人の作業は品質不良を発生させやすい。


Ⅱ.自動機械ライン

・各工程の作業を機械に置き換える。これにより人はワークを機械にセットし、起動ボタンを押すだけの作業となる。機械になるため品質が向上する。


Ⅲ.自動機械、一部自働機械・自働搬送ライン

・一部の機械に、不良や不具合が発生したら、機械自らがそれを感知し、自動停止し、さらにあんどんが点灯する機能を付加する(自働化)。これにより作業者はその機械が稼働中に監視する必要がなくなるため、機械の多台持ちが可能になる。また機械間のワークの搬送を自動にする。この際も搬送異常が発生したら、あんどんが点灯するようにする(自働化)。


Ⅳ.完全自働機械・自働搬送ライン

・すべての工程に自働化機能を付加する。こうなると人はあんどんの呼び出しに応じて作業をするだけとなる。

・さらにポカヨケを各工程ごとに工夫して設置し、工数をかけずに全数検査ができるようにする。

3.中国の実態

 日本では人件費が非常に高かったため、積極的な設備投資が行われてきた。機械購入費用を年間人件費で割り算すると数年という数字が出るため、経営者は投資決断をしやすいのだ。これにより品質も格段に向上すこととなった。

 しかし中国ではこれまで人件費が非常に安かったため、機械購入費用を年間人件費で割り算しても相当長い年数が出てくるため、経営者は投資決断ができなかった。そのため品質が悪いままで日本との差がどんどんひらいてしまうことになってしまった。そして「人海戦術」「ロット生産」「出来高制賃金制度」という悪癖が今日まで続き、1個流しラインに変えようと思っても、そう簡単には実施できなかった。しかしどうしても1個流しライン化を実現しなければ、次の段階へは永久に進めないことを一生懸命説明し理解してもらった。

ロット生産ライン

(コンベア・座り作業)

1個流し・ウサギ追いライン

(コンベア廃止・立ち作業)

4.中国の1個流しライン化の実例事例

まず最初に、現状のロット生産での不効率を数字で示してみることにした。

【現状の問題点】

①20%の工数がムダになっている

②ロット生産のため、作業中及び休憩し再開する際に 工程飛ばしを発生させる可能性が大きい

③品質を個人の責任に出来ない

【提案】1個を持って全工程を一人で作業を行う

1工程・・・12秒

2工程・・・・6秒

3工程・・・・8秒

4工程・・・・8秒

5工程・・・11秒

6工程・・・12秒

7工程・・・10秒

 合計・・・67秒

この場合、最も遅い12秒がこのロット生産ラインの生産能力となるため、12秒より速く作業をしても全く生産高には影響しないことになる。そればかりか速く造ろうとしても、ラインが詰ってしまうので、何もせず遊んでいるしかなくなってしまう(手待ちの発生)。

そこでこの7つの工程のすべてを1人が1個のワークについて連続して行えば67秒の作業となる。こうすれば17秒の手待ちを解消することができる。

2工程の手待ち・・・・6秒(12秒-6秒)

3工程の手待ち・・・・4秒(12秒-8秒)

4工程の手待ち・・・・4秒(12秒-8秒)

5工程の手待ち・・・・1秒(12秒-11秒)

7工程の手待ち・・・・2秒(12秒-10秒)

 手待ち合計・・・・・17秒

手待ち合計17秒÷ロット生産の投入工数84秒(12秒×7人)=0.2

この事例のラインでは、ロット生産から1個流し生産に移行させるだけで20%の工数低減を実現できることがお分かりいただけると思う。これは手待ちというムダを取り除いたのであるから決して労働強化ではない。

5.ウサギ追い

7人でロット生産をしていたラインを1個流しラインにするわけだが、その場合 1人が1個のワークを持ってすべての工程を渡り歩く。しかし1人だけでは生産量が足らないので、少し間隔をあけて次の人が同じような作業を始める。こうやってどんどん人を投入すれば生産量は増える。しかしこれを実現させるには全ての作業者が全ての工程の作業ができなければならないので、多能工化の教育が必要となる。

【自動半田機で従来の60秒監視をゼロにする】


①Bをセットし、起動ボタンを押す(自動的にBが半田される)

②A(すでに半田済み)を持って、次の工程へ行く

6.監視の解消

7工程目は自動半田機だ。従来のロット生産では、これに6個セットして1個に つき10秒の自動半田を行うのだが、作業者は60秒間ずっと監視していた。これが1個流しになれば、自動半田機の2個分だけ使用することになる。その手順は、作業者が自動半田機のBに持ってきたワークをセットし起動すると自動半田作業が開始される。作業者はすでに完成しているAにある製品を持って次の工程へ進んで行く。これにより従来の60秒の監視工数がゼロになる。

7.座り作業から立ち作業への抵抗

1個流しラインは製品が形作られて行く順序に従って、部品を配置する。そこを1人の作業者が1つの製品を持って、1~2分間連続して組付作業や加工作業を行なう。従ってどうしても作業者は立って歩きながら仕事をしなければならない。従来はロット生産で、椅子に座って流れて来るワークを取って作業していたのだが、結構手待ちも発生して1個流しに比べれば楽だったかもしれない。しかし座り作業も手待ちの発生も、工程の進化の妨げになる以上、どうしてもで排除していかなければならないのである。

ところでいろいろな産業を見回してみると、現業部門はほとんどすべて立ち作業であることに気づく。スーパー、百貨店、ホテル等、お客の目に飛び込んでくる人達はすべて1日中立って作業をしている。トヨタ工場でも座り作業は皆無だ。

確かに立ち作業でも、一ヶ所にずっと立ったままの場合は、血の巡りが悪くなってしまうため体に良くない。しかし歩行が 伴う立ち作業なら健康に非常に良い。むしろ一日中座り作業のホワイトカラーこそ体に良くないのだ。だから彼らの多くは終業後、1~2時間はウォーキングなどのエクササイズをして健康を維持している。

【座り作業ら立ち作業への説得】


①コンビニ、デパート、ホテル等第3次産業も現業はほとんど全て立ち作業である。

②トヨタ工場に座り作業は1つもなく、すべて歩く立ち作業である。

③立ち作業でも一ヶ所に留まっている場合は健康に悪いので座った方がよいが、歩く立ち作業は健康に良い。長時間の座り作業が最も健康に悪いので、それをしているホワイトカラーは1日1~2時間外にウォーキングして健康維持している。

8.1個流し化の効果

・多能工化により作業者が物づくりへの興味が沸いた。ロット生産で10秒程度の作業を1日繰り返すのは苦しい。しかし1個流しラインではそのラインの作業をすべて行ない、自分が作った製品の品質の責任を持たされることでやり甲斐を感じる。

・多能工化により全員が全工程の作業を修得するため、ロット生産での熟練工が休んでも生産に支障が出なくなった。

・生産リードタイムの最短化が実現でき、工程内に不要な仕掛品がゼロになった。これによりランダムに必要となる仕掛品のハンドリングがなくなり、作業がサイクリックになった。

・作業がサイクリックになったため、標準作業化が可能になり、標準時間が設定できた。

・標準時間が設定できたため、1時間当たりの計画数を算出できるようになり、生産管理板による管理が可能になった。生産管理板に1時間ごとに合格数を入れることによって、作業遅れが明確になる。そしてその原因を追及して対策を打つ。

・生産管理板による管理により、作業者がもしサボれば合格数が減少し、それが明確になってしまうのでサボれなくなった。これにより出来高制賃金制度でサボりを防止する必要がなくなった。会社としても作業者を1日100m走の速さで走り続けさせることは得策でなく、マラソンの速さで走らせるべきなのだ。そうしないと作業者が息切れしてしまうし、品質もいい加減なものになってしまう。

・工程ごとに品質チェック項目を決め、標準作業に折り込み、その標準時間も設定した。これにより不良の発見が早期化した。

・各工程にいろいろなポカヨケを考案したため、工数をかけずに全数品質チェックができるようになった。

・完成品には作業者ごとの印を付けたため、各自の品質に対する責任感が増した。

・完成品には作業者ごとの印を付けたため、不良品が発見され、それが組立責任の場合、誰が組立てたのかが分かるためその人に対する再発防止対策が打てるようになった。

・必要生産数量に合わせて人をラインに投入できるようになった。これにより労務費のムダがなくなった。

・1個流しラインを体験してもらうことで、今後の自働化への進化イメージを説明することができた。

【管理面】1個流し化⇒1個のサイクルタイムが算出出来る⇒生産管理板が出来る

【技術革新面】1個流し化⇒自動ライン化へ進展できる

9.皆さんがしっかりやってくれた

私から幹部・管理者への説明には、セミナーを実施したりして1ヶ月を要した。そして幹部・管理者から作業者へ考え方、方法等を十分に説明してもらってトライに踏み切った。作業者の皆さんも本当にしっかりやってくれた。

 ところで私はいろいろな所で「日本人労働者の質は高いですが、中国人労働者の質は低くないですか?」という質問をよく受けるが、その際は次のように答える。

「物づくりとは、しっかりしたしくみを作った上で、標準作業を設定し、作業者にはそこに書いてある指示通りの作業を 100%やってもらうことです。また管理とは、作業者が100%まじめにそれをやっているかどうかチェックすることです。御社ではしっかりしたしくみもなく、さらに正確な標準作業もありません。だから管理もされていません。失礼ながら御社の管理者は“無”管理者と言うしかありません。このような現場の状態では誰が作業をやっても良い品質の物はできません。私は、中国人労働者は非常にしっかり仕事をやると思います。その質は決して劣るものではないはずです。 問題はしっかりしたしくみや標準作業がないことです」

1個流しライン化へ努力している風景

10.ポーランド企業での1個流しライン化の事例

このポーランド企業は何本もラインを持っており、すべてロット生産だったが、座り作業と立ち作業の両方があった。

そこで立ち作業の1つのラインをモデルラインにして1個流しのトライを行った。

まず2日間に渡ってセミナーを行い1個流しの必要性やトヨタ生産方式の概要を説明した。すでに立ち作業も行っていたこともあり、中国企業に比べて理解してもらうのが容易だった。そこで彼らは既存のままできる一直線の1個流しラインをトライした。しかし帰りの歩行距離が長いということからL字ラインに変更した。

ポーランド企業での実施事例

【ロット生産】

【1個流しライン】

ロット生産ライン

1個流し・ウサギ追いライン

その変更たるや、設備課の巨漢のおじさん達がよってたかって即座にやってしまった。この迅速さは尋常ではなかった。私は「トヨタでもこんなに迅速にはできていなかった」と本音の感想を言うと、皆さんが本当に喜んでいた

【迅速なライン変更工事】

そのうち社長や幹部が現場視察に来たが、1個流しラインの素晴らしさや、その迅速さに驚嘆していた。

【社長以下幹部も成果にビックリ】

さらにこのポーランド企業の特筆すべき点は、超ビッグサイズの生産管理板だ。私はA4用紙への記入をお願いしたのだが

毎日の生産管理板は束ねて現場で保管する

彼らは「もっと大きくして、関係者全員に良く見えるようにした方がよい」という提案があり、早速超特大の用紙の生産管理板を作って実施してしまった。私もこんなに大きなものは見たことがなかったのでびっくりした。彼らの発想の豊かさには降参だった。

ただし彼らにアドバイスしたのは、生産管理板は過去1ヶ月間は現場に保存しておいて、誰もが見られるようにする必要があることだ。そのため今回は毎日写真を撮ってそれをA4用紙にコピーし現場に保存しておくようにお願いした。

【ポーランド企業ロット生産の状況】

1955(昭和30)年、愛知県豊橋市生まれ。

1978(昭和53)年、早稲田大学商学部を卒業。

トヨタ自動車工業へ入社以来、人事部(海外人事関係)、経理部(債権債務管理)、財務部(輸出入経理)などの本社機能を経て、現場の本社工場・原価グループ(鍛造工場能率・製造予算管理、たな卸し本社工場事務局)、本社工場・生産管理室(車体・塗装・組立工場生産管理)、米州事業部(海外生産車の原価企画)、田原工場・原価グループ(成形工場能率・製造予算管理)、田原工場・生産管理室(エンジン・鋳造工場生産管理)、などを経験。

一貫して、トヨタ生産方式の「石垣」ともいえる「生産管理・原価管理・要員調整」の実務を担当し、さらに「天守閣」としての「トヨタ生産方式現場改善」までを実践。トヨタ生産方式部課長自主研メンバー。「かんばんのフローラックラベルへの活用」等で、多数の表彰を受ける。

2004年、基幹職(課長級以上)のチャレンジキャリア制度(転出促進制度)に応じ、40代でトヨタ自動車を退職。

退職後、オーエスジー株式会社へ入社し、トヨタ生産方式の導入に活躍。

2007年、オーエスジーを退職し、豊田生産コンサルティング株式会社を設立。

青木幹晴(あおき みきはる)プロフィール

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