ここで売価についても考えてみたい。

  売価・・・・これから未来に向けて会社に入ってくるお金

  変動費・・・これから未来に向けて会社から出て行くお金

 ということは、売価で変動費さえカバーできれば会社から新たにお金が出て行くことはないということだ。だから人を雇っているような場合には、その労務費は変動費なので支払うことができるので雇用維持という観点ならギリギリの線ということになる。しかし売価が変動費を下回った場合は、会社から新たなお金が出て行ってしまうので、その取引はやってはならない。

 従って売価は変動費をカバーできるところを最低ラインと定めてそれより上の価格として、逆に利益の取れる商品はしっかり取っていくというふうに柔軟に設定すべきだ。このようにすれば原価が高くて儲けにくい製品でも思い切った価格設定にできて取りこぼしなく営業できる。


 ある会社は数年前、新工場を建設した。しかしそれからすぐに経済状態が悪化して生産量が減ってしまい、旧工場も新工場も生産能力が余ってしまうことになった。ところが最近徐々に景気が持ち直してきたので新製品を市場に投入することになった。そこでそれを新工場か旧工場かどちらで造るべきかを決める経営会議が開催された。

 まず新工場の工場長が自信満々な表情で、「新工場は最新鋭機械が入って、作業者も少なくてよくなったし、省エネ性能も抜群です。ですからもちろん新工場で造らせて下さい」と言った。すると旧工場の工場長がすかさず、「旧工場は機械や建屋の減価償却がほぼ終わっています。ですから経理部原価計算課が算出した新製品の製造原価も旧工場は3しかかからないのに新工場は4もかかってしまいます。旧工場の方が25%も安いのです。旧工場で造るのが当たり前だと思います」とこちらも自信満々で発言した。やはり「原価が安い」と言われれば誰もそれに反論できなかった。そして結局、旧工場で造ることに決定した。

 このような議論は、日本のみならず世界の会社で日常的に行われていると思う。そしてこのような結論に陥ってしまうことを「原価の魔術にかかっている」という。

 ではその魔術を解くにはどうしたらいいのだろうか。それは“総費用”で議論してはいけないということだ。原価は“すでに支払いが終わってしまった費用(固定費・埋没コスト)”、と“これから未来に向って新たに発生する費用(変動費)”の2つに大別して考えなければならない。

 もう少し身近な例で見てみよう。例えばトラック運送業で荷主が値切ってきたような場合、下記の変動費相当分が請負い金額の最低ラインとなる。

  変動費・・・・労務費、燃料代、高速代

  固定費・・・・トラック償却費、事務所経費の配賦分

 もし請負い価格が、この変動費相当分を割り込んでしまったら、このトラックを走らせることで損をしてしまうのだから断るべきなのだ。

 ではこの例を変動費と固定費に区分してみる。

  旧工場・・・・変動費2+固定費1=3

  新工場・・・・変動費1+固定費3=4

 変動費だけで比較してみると新工場は旧工場の50%も少なくてすむ。これから未来に向って発生コストが半分ですむのだから、新工場で造らすのが当たり前であろう。固定費は新工場でいくらかかったであろうが、すでに投資は終わってしまっている。それは会社全体で負担しなければならないのだから、新旧の工場が議論すべきものではない。

売価の決定許容範囲(新設工場)

1955(昭和30)年、愛知県豊橋市生まれ。

1978(昭和53)年、早稲田大学商学部を卒業。

トヨタ自動車工業へ入社以来、人事部(海外人事関係)、経理部(債権債務管理)、財務部(輸出入経理)などの本社機能を経て、現場の本社工場・原価グループ(鍛造工場能率・製造予算管理、たな卸し本社工場事務局)、本社工場・生産管理室(車体・塗装・組立工場生産管理)、米州事業部(海外生産車の原価企画)、田原工場・原価グループ(成形工場能率・製造予算管理)、田原工場・生産管理室(エンジン・鋳造工場生産管理)、などを経験。

一貫して、トヨタ生産方式の「石垣」ともいえる「生産管理・原価管理・要員調整」の実務を担当し、さらに「天守閣」としての「トヨタ生産方式現場改善」までを実践。トヨタ生産方式部課長自主研メンバー。「かんばんのフローラックラベルへの活用」等で、多数の表彰を受ける。

2004年、基幹職(課長級以上)のチャレンジキャリア制度(転出促進制度)に応じ、40代でトヨタ自動車を退職。

退職後、オーエスジー株式会社へ入社し、トヨタ生産方式の導入に活躍。

2007年、オーエスジーを退職し、豊田生産コンサルティング株式会社を設立。

青木幹晴(あおき みきはる)プロフィール

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