設備機械製造メーカーからエンジン製造ラインをそっくり購入しており、見た目はトヨタのエンジン工場と変わりませんでしたが、細部を詳細に見てみると、やはり問題点が多く存在しました。これは自分の努力で一から作り上げてきていないからだと思いました。これではトヨタや日本の品質には絶対に追いつけません。

 そこで中国は、エンジン・ミッションの製造をあきらめ、構造が非常に簡単な電気自動車に国家を挙げてシフトしているのです。

 またフランスを初めとするヨーロッパやアメリカ、特にカリフォルニア州では環境政策の面で電気自動車化を法制化して進めています。

 しかしいくら国が主導して進めたとしても、最終的にお金を出費するのは個々の人々です。経済合理性がなければ人々はビタ1文出費しません。


 中国で、純粋中国企業のエンジン工場を見学しました。外注品倉庫には、膨大な外注品の在庫を持っていました。また工場内には仕掛品が膨大に造られてビニールシートが掛けられた状態で保管されていました。このような在庫は時間の経過とともに品質が劣化してしまいます。ですからこんなに在庫を持っていると、製造工程でどんなに品質に注意して製造しても、品質係がどんなに品質管理体制を確立しても無意味となってしまいます。

 共産主義統制経済はソビエトでも、中国でも失敗しました。私は今の国家電気自動車化の動きは、まったく共産主義統制経済と同質だと思います。「こうあって欲しい」という願望が国策化したもので、それが経済合理性を打破できるとはまったく思いません。ある意味、世界的なブームで、このブームは必ずいずれなくなると思います。

 それでは経済合理性を具体的にみてみましょう。

 トヨタはハイブリッド車がすごいです。しかしトヨタの小型車のガソリンエンジンの燃費も近年大幅に向上されています。

 ハイブリッド車はガソリンエンジンとモーター・電池をすべて搭載しているため、車体価格が非常に高くなっています。もちろんそれにより燃費はすごくいいわけです。

 ハイブリッド車の車体価額-ガソリンエンジン車の車体価額=差額(A万円)


 ハイブリッド車の1L当たりの走行距離-ガソリンエンジン車の1L当たりの走行距離=1L当たりのハイブリッド車の優位距離(Bkm/L)


 13万km÷Bkm×ガソリン1Lの価額=A万円

以下、具体的な数値で検証してみます。


カローラ1500ハイブリッド車

カローラ1500ガソリン車     価額差・・・・・304,500円


カローラ1500ハイブリッド車の燃費25km/L

カローラ1500ガソリン車の燃費18km/L     燃費差・・・・7km/L


現在のガソリン価額140円/L


Ⅹkm÷18km×140円-Ⅹkm÷25km×140円=304,500円

Ⅹ=139,821km


 このようにハイブリッド車を購入しても、13万kmも走ってようやくガソリンエンジン車より徳になるのです。ハイブリッド車と同クラスのガソリンエンジン車は車体価額自体が安いので、結局、最初からガソリンエンジン車を購入しておけば、その差の分だけ徳になります。


  最近、日産がノートeパワーと名付けて、発電用ガソリンエンジンを搭載した電気自動車を発売しました。ハイブリッド車はガソリンエンジンの駆動と電気モーターの駆動が複雑にからみあって加速していくためスムーズさを少し欠きますが、このノートeパワーは駆動系が電気モーターだけのため抜群の加速を得らます。したがってものすごく販売数を増やしています。これによりトヨタのハイブリッド車が脅かされています。


 「もうこれでトヨタは日産に負けてしまうのではないか」と心配になってトヨタ関係者に聞いてみました。

 すると彼は「確かに日産eパワーはトヨタのハイブリッド車にとって脅威です。しかし経済合理性はガソリンエンジン車にあるため、トヨタの販売の主力としてガソリンエンジン車は微動だにしません」と言っていました。


 さらに彼は、次のように語りました。

 「中古車市場はまだまだガソリンエンジン車の独壇場です。その中でもトヨタ品質は抜群で非常に高価で取引されます。しかし電気自動車はバッテリーが劣化し、その交換が必要なため中古車価額が非常に安くなっています」


せっかく高いお金を出して電気自動車を購入しても、それが中古車市場で満足に売買できないとしたら恐ろしくて買う気にはなりません。


 電気自動車の不安はつきません。とにかく充電設備のインフラが未整備です。電気自動車は1回の充電での走行可能距離をどんどん伸ばしています。しかしどんなにそれが伸びても、例えば名古屋から東京を往復しようと思って電気自動車で出発しても、絶対に1度は充電しなければなりません。東京のどこに充電設備があるのでしょうか。それを探さなければなりません。幸いにしてそれが見つかりそこまで行ったとします。しかし数台が並んで待っていたとしたら、少なくても1時間は充電にとられてしまいます。

 ガソリンなら液体なので数秒で終わりですから、どれだけ並んで待っていても怖くありません。


 大都会の東京へ行くのを想定しても、それほど不安になります。それがもしも中国の田舎へ出発しようとしたら、絶対に電気自動車での出発はできないと思います。中国の田舎でも電気スタンドの設置など22世紀になっても無理ではないかと思います。電気自動車の普及は都市内に限定され、国土全体への普及は有り得ないと思います。

 また、国家全体としての電力供給は真夏など現状でも逼迫しています。従って電気自動車が普及していけば、それに対応する発電施設の新たな建設が必要となります。


電気自動車の急速充電には30分かかります。

これは500Wの電子レンジ120台が同時に稼動しているのと同じほどです。


もしも日本国内8000万台の自動車がすべてEVになった場合を考えてみます。

年間平均走行距離を5000kmと仮定すると、1年に20回のフル充電、トータルで500億kwの電力が必要になります。

1時間あたりに換算すると平均285万kwが充電のため必要になります。

昼間帯に充電が集中すると1時間平均570万kwの電力が瞬間的に必要となります。

これは原発5基分に相当します。

さらにGW、お盆、年末年始のピーク時には一体どれほど必要になるか算出すらできません。


このように国家的電力政策の見地からも、電気自動車の普及は極めて難しいのです。



話は変わりますが、日本政府は税制面で軽自動車を非常に優遇しています。

 そのため日本では軽自動車が非常に多く走っています。しかしこれは輸出がまったくできません。

 その理由は、車体は小さいのですが、エンジンはさらに小さく、その小さいエンジンにエアコン等も含めて思いっきり負荷をかけているため燃費はあまり良くありません。諸外国は燃費の良し悪しで税金が決まるため、日本の軽自動車はまったく受け入れられません。

 さらに販売台数等の関係からか、トヨタのビッツなどより軽自動車の車体価額が高いのですから、外国人には見向きもされないのです。


 このように国家が経済合理性を無視して、どのような行動をとろうとも絶対にうまくいきません。電気自動車についてもこれとまったく同じだと思います。


 地球上では石油の発見があいついでおり、今後石油が枯渇する可能性はありません。従ってガソリンエンジンの経済合理性は不変です。

1955(昭和30)年、愛知県豊橋市生まれ。

1978(昭和53)年、早稲田大学商学部を卒業。

トヨタ自動車工業へ入社以来、人事部(海外人事関係)、経理部(債権債務管理)、財務部(輸出入経理)などの本社機能を経て、現場の本社工場・原価グループ(鍛造工場能率・製造予算管理、たな卸し本社工場事務局)、本社工場・生産管理室(車体・塗装・組立工場生産管理)、米州事業部(海外生産車の原価企画)、田原工場・原価グループ(成形工場能率・製造予算管理)、田原工場・生産管理室(エンジン・鋳造工場生産管理)、などを経験。

一貫して、トヨタ生産方式の「石垣」ともいえる「生産管理・原価管理・要員調整」の実務を担当し、さらに「天守閣」としての「トヨタ生産方式現場改善」までを実践。トヨタ生産方式部課長自主研メンバー。「かんばんのフローラックラベルへの活用」等で、多数の表彰を受ける。

2004年、基幹職(課長級以上)のチャレンジキャリア制度(転出促進制度)に応じ、40代でトヨタ自動車を退職。

退職後、オーエスジー株式会社へ入社し、トヨタ生産方式の導入に活躍。

2007年、オーエスジーを退職し、豊田生産コンサルティング株式会社を設立。

青木幹晴(あおき みきはる)プロフィール

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