トヨタの生産方式に関して

「日本造船改善の歴史」 第20回

青木幹晴

1. ブロック建造方式

 当初、造船における船殻の組立は、巨大なドッグで最初から最後まで行われていた。ドッグは巨大なるがゆえに屋根などなく、その組立作業は露天で行われていた。そのため雨が降れば作業は中止になる。さらにそこでの労働環境は、夏は炎天下の灼熱地獄であり、冬は寒さに震えなければならないというように劣悪であったため、作業能率は低くならざるを得なかった。また温度変化による品質の悪化も大きかった。
 その点を克服したのが、第2次世界大戦の際、わが国の呉海軍工廠で大和や武蔵などの巨大戦艦を建造するために考案された「ブロック建造方式」だ。これは船殻を多くのブロックに分割して、それを建屋の中で製造して組立を露天のドッグで行うというものだ。これによりブロック製造が雨天でもできるようになり、工期は飛躍的に短縮された。また作業者の労働環境が屋内作業となったことで、作業能率も大きく向上した。さらに温度調整等が可能になり、製品の精度も顕著に良くなった。
 このブロック建造方式は、終戦後、日本造船業へ引き継がれた。45,000トンのスーパータンカーで400個ものブロックに分割されている。そして終戦後10年ほどで、船殻建造期間は日本が4ヶ月なのに、西ドイツは7ヶ月、イギリスに至っては倍以上の10ヶ月もかかっていた。

2. ブロック建造方式での配管設置の改善

 ブロック建造方式に移行したあとも配管設置は、ドッグでブロックを組み付けたあと行っていた。これが非常に危険で且つ工数がかかる作業となっていた。
 そこで工場でのブロック建造の際に配管も設置してしまい、ドッグでブロックを組み付けたあとに管と管を溶接するようにした。
 これは「管とは直線部分はシームレスで配管する」という常識を打破し、「管の溶接などどれだけ増えても、ブロック単位で分割配管した方が儲かる」という着地点まで進めることができた。この改善は「改善が改善を生む」という非常に良い事例だ。この改善の一歩は日本造船業の発展にとっての歴史的な一歩だったに違いない。

3. 歯医者さん方式

 歯科医院では、一人の歯科医師に対して多数の患者用治療椅子が用意されている。患者がそこへ座ると、歯科衛生士が来ていろいろな準備を行ってくれる。そして歯科医師が来て治療をしてくれる。それが終わったあと、また歯科衛生士が歯垢除去などのメンテナンスをしてくれる。
 これと同じことが造船のブロック溶接作業でも考案されていた。それは一級技能者であるA級者を歯科医師とみなし、B・C級者を歯科衛生士とみなすものである。
 従来はABC級者が1つのチームをつくって、1つのブロックのすべてが終わるまで協力して作業していた。それをA級者のチームとBC級者のチームの2チームに分け、A級者のチームは難易度の高い作業を行なってそれが終わったら、次のブロックへ移行する。残った難易度の低い作業をBC級者のチームが引き続き行なって完成させる。これにより生産リードタイムは飛躍的に短くなった。